文野はじめ/三木なずな 『学園都市構想リボルト』 (ディスカヴァー・トゥエンティワン)

学園都市構想リボルト NOVELiDOL

学園都市構想リボルト NOVELiDOL

おれたちは四国人、日本人じゃない。

ニュージェネレーションと呼ばれる、四国成立後に生まれた新世代の若者に顕著に見られる意識が芽生えた。

彼らは自分たちを四国人と呼び、日本を本土と呼んで、区別するようになった。

最初の頃は小さな灯火でしかなかった、しかしくすぶっていたそれが火種になって、今や無視できない程の巨大な炎になった。

全島をあげての学園都市化と仮想通貨の導入により,科学技術の発達と独自の経済圏を築き上げた研究学園都市四国.住民は自らを「四国人」と呼び,四国在住ではない「日本人」をあからさまに蔑むようになっていた.学園都市を卒業したのち,銀行部に勤務していた修也は,地球への隕石の接近によって,仮想通貨が無価値になるというニュースを聞く.

若者たちによって運営されるユートピア,四国に潜む陰を描く.ノベライドル文野はじめによる近未来学園都市SF.四国独立派によるクーデターだの,四国技術革命だの,いちいち四国をフィーチャーしているのがおかしい.ARや仮想通貨(読む限りただの電子マネーのようだが)といったガジェットと「四国人」の四国観がけっこう楽しく,すらすら読める.それにしてもやけに中途半端なところで終わるな,と思って帯を見たら,「展開を読者が選ぶ」「読者連動企画」とあるのに気付いた.しかし,帯以外にはまったくそれらしいこと書いてないし,どこでどう展開を選べばいいのかわからない.公式サイトはもう存在しないようだし,悪い小説ではないけど続きが出ることはなさそうだな…….

暁雪 『異世界とわたし、どっちが好きなの?2』 (MF文庫J)

異世界とわたし、どっちが好きなの?2 (MF文庫J)

異世界とわたし、どっちが好きなの?2 (MF文庫J)

「あ、ハゲで思い出したけど、そういえばこのまえ読んだラノベで、ハゲてるほどモテるって異世界があったわね」

「なにそれ読みたい」

「『僕は頭髪が少ない……けど、異世界ではモテモテでした』ってタイトルよ」

「おう、ぎりぎりだな」

異世界への転移よりも彼女を取った市宮翼は,鮎森結月とイチャイチャしながら充実した学園生活を送っていた.そんなある日,異世界の女神様から,ふたりでバカップル選手権に出ないかと誘いを受ける.これに優勝すれば,そろって異世界への転移を認めてくれると聞いた翼と結月は,選手権に出ることに決める.

美形エルフカップルとのバカップル対決を制するのはどっちだ.相変わらず,毒にも薬にもならないカップルのイチャイチャ話.デビューから一貫して,ただひたすらいちゃいちゃするだけの話を書き続ける胆力は尊敬に値する.しかし,今回はハゲに対してやけにあたりが強く(引用部分以外も),かわいそうな気持ちになった.ハゲは作中でも何も悪いことしていないのに……

神田夏生 『狂気の沙汰もアイ次第』 (電撃文庫)

狂気の沙汰もアイ次第 (電撃文庫)

狂気の沙汰もアイ次第 (電撃文庫)

『いいですか皆さん、よく聞いてください。我々は、あなた方を地球からこの@※★※→☆※星へと攫ってきました』

宇宙人によって,地球から遠く離れた星に監禁された七人の男女.脱出不可能な空間での集団生活で与えられるのは,十分な量の塩気の強い食料と,「飲むと殺人衝動がわく水」.宇宙人の目的は,極限状態における地球人の「アイ」を観察することだという.

アイの理解を求める宇宙人に監禁された七人が,極限で見たものとは.宇宙人による無期限の監禁! 飲むとひとを殺したくなる水! 「これは殺し合いではない」といいながらやたら殺すように煽り,さらに好き勝手にルールを作っては好き勝手に破る宇宙人! 「SAW」宇宙版といった感じだがこれは楽しいぞ.ここまでいろんなものを投げ捨ててやりたい放題やった小説は久しくなかった.それでいて論理的にはそこそこ一貫している(たぶん)し,変な理屈がないせいか意外なほど読みやすい.あまり考えずに楽しめるバカSFサスペンスが好きなら悪くない.楽しゅうございました.

藍内友紀 『星を墜とすボクに降る、ましろの雨』 (ハヤカワ文庫JA)

星を墜とすボクに降る、ましろの雨 (ハヤカワ文庫JA)

星を墜とすボクに降る、ましろの雨 (ハヤカワ文庫JA)

だって地球の戦場で人間を撃つスナイパーは、人間を愛しているからこそ、人間を撃っているんだ。彼らが人間を愛するのは、そう造られたからじゃない。ならボクらだって、星を愛しているからこそ、星を撃っているのだ。

それなのにどうして、星を撃つ〈スナイパー〉だけが造られた存在だと考えるんだろう。

地球圏と流星群が交錯する時代.軌道庭園では,迫る星々を撃墜するために造られた〈スナイパー〉の子供たちが黙々と役割を果たしていた.〈スナイパー〉のひとり,霧原は,整備工の神条と組んで日々星を撃っていた.

人造の眼球と改造された体を持つ〈スナイパー〉の少女の最初で最後の恋.第5回ハヤカワSFコンテスト最終候補作.別名義で出版された『緋色のスプーク』(感想),『アジュアの死神』(感想)からの再デビュー作という言い方でいいのかな.男女の微妙な距離感の描き方に似たものを感じるけど,今回はその極北のように思う.

ラブストーリーというよりはメロドラマの雰囲気を感じるけど,男女の名前が入れ替わっていたり,SFガジェットが妙に古臭かったり,独特の雰囲気が全体に漂っている.星を誰よりも愛するからこそ星を撃つという,一見して矛盾する感情に綺麗に理由付けをしているのは見事だと思う.一途な愛をもって自分を貫き通した霧原は,最終的に欲しかったものをすべて手に入れる.これはハッピーエンドと見ていいのかな.儚くて危うい,恋の物語でありました.

旭蓑雄 『混沌とした異世界さんサイドにも問題があるのでは?』 (電撃文庫)

混沌とした異世界さんサイドにも問題があるのでは? (電撃文庫)

混沌とした異世界さんサイドにも問題があるのでは? (電撃文庫)

でも、そんなのいまさらだろ!?

尻尾のない蛇女(ラミア)! 男らしい淫魔(インキュバス)! で、今度は泣かない泣き妖精(バンシー)だ!

…………

「……よくよく考えると、何でこんな色モノばっかりなんだ? 絶対おかしいだろ……」

ある日,高校生の創真は事故によって異世界に転移してしまう.いろいろあってラミアの少女,オメガとともに調達士になった創真は,元の世界へ帰るために様々なクエストをこなしていくのだが,当然ながら一筋縄ではいかないわけで.

混沌としたパーティで異世界ファンタジーの常識……もといお約束にケンカを売る異世界ファンタジー.嫌みもなく他愛もないコメディ.これといって言うことはないのだけど,作者のこれまでの作風から見ると異色作といえるのかな.