新井輝 『さよなら、いもうと。』 (富士見ミステリー文庫)

さよなら、いもうと。 (富士見ミステリー文庫)

さよなら、いもうと。 (富士見ミステリー文庫)

題材が題材だけに湿っぽい話になるのかと思ったらそんなこともなく,かといってベタベタに甘くなるでもなく.台詞のやり取りもどっちかといえば淡々としているのに,でもどことなくしっとりしていて,良い意味で掴み所が無い.ふわふわしているというか.テキスト技術はもちろんのこと,物語の設定上の曖昧さをわざと放置して追求せず(させず),つまりは曖昧さを「謎」に昇華させずあくまで「不思議」のレベルに留め置くことでこの独特の雰囲気を演出していると私は感じたがどうか.なんとなく予想の出来るラストも,悲しいはずなのにどことなく優しい.あー,なんかしみじみ沁みる.すごく好きだわ,これ.上半期のベスト級.えらく抽象的な感想になって恐縮ですが,広い層にお薦めしたい一冊.肌に合わないと思って敬遠していた「ROOM NO.1301ももう一回読み返してみようかしらんという気になった.