紅玉いづき 『MAMA』 (電撃文庫)

MAMA (電撃文庫)

MAMA (電撃文庫)

『ミミズクと夜の王』の作者のちょうど一年ぶりの新刊.孤独な人喰いの魔物と,その母親になろうとした落ちこぼれの少女の物語「MAMA」とその後日談「AND」の二編からなる.
「MAMA」.頑なに世界を拒み,閉塞した二人の世界がさまざまな出会いと別れによってゆっくり開けていく.世界は絶望だけでなく希望にも溢れていることを優しい筆致で描いている.
「AND」も良かった.不器用に生きる兄妹の曖昧な関係の微妙な変化が,シンプルな言葉のやり取りだけで十二分に表現される.もの凄く上手い.

「虚言だな」
ダミアンがそう言うから、ミレイニアは笑った。
「ええ、そうよ」
だから、そういうことになった。

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世界の冷たさや理不尽と同時に優しさも存在することを描けるこの筆力は凄いと思う.最終的な読後感も優しいもので,電撃文庫に収めておくのは勿体無い作者かと.
あと,あとがきにとても感銘を受けた.あとがきはいつもは斜め読みなんだけど,この作者のあとがきは短いなかから書くことに真摯に向き合っている姿勢が伝わってきた.否が応でも応援したくなる.蛇足かもだけどね.