イアン・マキューアン/村松潔訳 『初夜』 (新潮社)

初夜 (新潮クレスト・ブックス)

初夜 (新潮クレスト・ブックス)

彼女は彼にキスをした。深いキスではなく、ちらっと焦らすようなキス。彼がそう感じただけかもしれないが。その初めのころ、ほんの小さな可能性だったが、彼女は遠からず彼と最後まで行くことも辞さない、あの伝説的な良家の娘のひとりかもしれない、と彼は期待したものだった。しかし、野外の、行き来の激しい川べりでは、もちろんそんなことはありえなかった。

Amazon | 初夜 (新潮クレスト・ブックス) | イアン・マキューアン, 村松 潔 | 英米文学 通販

1962 年のイギリス.歴史学者を目指すエドワードと若きバイオリニストのフローレンスは,運命に導かれるように恋をし,今日,無事に結婚式を終えた.まだベッドを共にしたことのないふたりは,初夜を控え,ホテルでディナーをとっていた.
タイトルのとおり,ふたりの「初夜」の数時間の出来事.ふたりの生い立ち,家庭環境,出会いといった回想のエピソードを幕間のように挟みながら,ふたりっきりの部屋のなか,初めてのベッドインを控えた新郎新婦双方の頭のなかを時系列に沿ってねっちりと描く.この幕間がまるで披露宴の合間に流される映像を見ているみたいで,語り手が司会を務める初夜の実況中継を読んでいるような変な気分になる.ストーリーのひどさは筒井康隆の「喪失の日」とどっこいどっこいかね(褒めている).ふたりの心境のすれ違いを,ロマンチックな言葉を使って執拗に語るテキストは,同じことを手を変え品を変え書いている感じ.最初のうちは楽しく読めるんだけど,途中で正直飽きてしまった.