デイヴィッド・ベニオフ/田口俊樹訳 『卵をめぐる祖父の戦争』 (ハヤカワ・ミステリ)

卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1838)

卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1838)

わしは深く息を吸い込み、コーリャを見た。彼もわしをまっすぐに見返してきた。
「心配するな、友よ。きみを死なせはしない」
まだ十七だった。愚かだった。だから彼を信じた。

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第二次大戦中,ドイツの兵糧攻めにより陥落を目前にしたレニングラード.深夜外出禁止令を破った若き日のお祖父ちゃんことレフ・ベニオフは赤軍につかまり投獄される.一緒に投獄されていた脱走兵コーリャとともに公開処刑を覚悟したレフだったが,大佐の娘の結婚式である木曜日までに卵を一ダース持ってくれば,命を助けてやるという条件を提示される.
『トロイ』や『ウルヴァリンX-MEN ZERO』の脚本家が描く,お祖父ちゃんの経験した戦争.祖父の一人称による述懐という形式で語られる.飢えと死の恐怖に支配されたソ連で,一ダースの卵を探して 50 キロの雪道を行く二人の道行き.調子のいいコーリャとのやり取りは下ネタがちと多いけどユーモアたっぷり.すごく愛情がわく.道中での様々な出来事や出会い,別れはロードムービーの風情.甘酸っぱくて切ねえぇ.戦争のドロドロした悲惨さを十二分に描きながらも,エンターテイメントのお約束を外さず,情景描写も非常に豊か.後半に入ったあたりからの展開がすっきりまとまりすぎる気がしたけど,「傑作歴史エンタテインメント」の冠には相応しい作品だと思う.
あと,訳者あとがきは最後に読んだほうがいいと思う.ネタバレとは違うんだけど,印象が違ってくると思うので…….なんというか,こんちくしょうと悔しくなったw 面白かったです.