海法紀光 『朧村正 〜鳥籠姫と指切りノ太刀〜』 (みのり文庫)

朧村正 ~鳥籠姫と指切りノ太刀~ (みのり文庫)

朧村正 ~鳥籠姫と指切りノ太刀~ (みのり文庫)

「忍を抜けたのは、ただの偶然だった。そしたらな、何をしてもよくなった。最初はうれしかったんだがな」
鬼助はため息をつく。
「段々、重くなってきた。昔は何をしろ、良い悪いってみんな言ってもらえたからな」
もっとも、悪いと言ってもらえることは滅多に、なかった。たいていの場合、その時は死んでいる。
「でめぇの命ってのを、持て余してんだ。要するに」

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抜け忍の鬼助は,妖刀・指切り村正に魅入られ,公儀隠密から狙われる身となっていた.追手をかわして森の中を進んでいた鬼助は,江戸幕府から隠れて暮らす名無しの里に流れ着く.ここで鬼助は,湖に住む蛟姫への生け贄にされそうになる.
Wii の同名ゲーム『朧村正』(感想)の外伝小説.抜け忍,妖刀,隠れ里.ジュブナイル伝奇小説とでも言えばいいかな.原作の特徴的なセリフ回しを活かした,けれん味のあるテキストが非常に効いている.生け贄を求める蛟姫と里の者たちの関係,鬼助を何かと助けてくれるお静の存在といったあたりを絡めて,仕掛けはオーソドックスながら,哀しくも優しい物語を見せてくれる.あと良かったのが「妖刀」の描き方.「握った手に、女の指が絡むような」,「柔らかな感触」といういかにもゾワッとする描写からはじまりながら,戦いのうちにだんだんと鬼助と村正の間に絆があることがほのめかされていく.それでいて,刀が擬人化されるわけでもない.この表現は原作にもなく,上手いなーと思ったところ.
てことで良かったです.個人的にはもう一回ゲームをやりたくなったのだけど,ゲームを知らない,やったことないひとにも読みやすいジュブナイル小説になってるんじゃないかなと思いました.