早川書房編集部編 『神林長平トリビュート』 (早川書房)

神林長平トリビュート

神林長平トリビュート

よく笑い、よく泣き、今泣いていたと思ったら、すぐにまたけろっと立ち直っている子供の秘密。大人から見たら、ただ遊んでいるようにしか見えない猫との対話。猫が「にゃーん」と形容される声で、あまつさえ「鳴いている」などと分類され勝手に理解されてしまう感覚は、大人になるまで、子供は知らずにいる。
子供の鳴き真似、小さい子が「ニャーニャー」としてみせるアレだって、大人からはそう見え、聞こえるだけで、本人たちは、その時々の猫の語り口調でそのまま話しているのだ。きちんと、〈あ、それはきっととうもろこしの缶詰めのことですよー〉と真似て話している。
あの、ニャーニャー。
私にはもう、それは言葉としては聞こえないけど。

七胴落とし

桜坂洋 「狐と踊れ」は,最強のセイブツの胃袋になるべく宿主から逃げ出した胃袋(名前は「フムン」)の冒険.跳ねまわる胃袋やストーリーラインがなんとなく童話のようでユーモラス.
「子どもだけがテレパシーを持つ世界」を「子どもだけが猫と会話できる世界」と換骨奪胎した辻村深月 「七胴落とし」は,テーマはオリジナルといっしょなのに,正反対の雰囲気の優しい短篇になっている.
少しずつ成長しながら,ブツ切れに現れる魔姫との時間,仁木稔 「完璧な涙」.報われない.
公式に観測された「死」と生の連環を描く円城塔死して咲く花、実のある夢はさすがの味というか.諦観というよりブラックユーモア?
リタイアしたふたりの老技術者が失われた「自動車」をつくる森深紅 「魂の駆動体」.どこかのどかで,ゆったりした時間を感じさせる.
虚淵玄敵は海賊は,「わたし」と「あなた」の対話から人工知性体がアイデンティティを探る話になっている.ラストがオリジナルにこう繋がるのか,と(読んでて薄々気づくかもだけど).
元長柾木 「我語りて世界あり」はオリジナルの設定を生かして,自分の作品にしている感.というか完全に元長柾木作品にしか見えないぜ.
言葉が物語を生み,世界を生むことをストレートに描く海猫沢めろん 「言葉使い師」.なんだろう,不思議としっとりした読み心地.
神林長平デビュー 30 周年を記念して出版された,若手作家によるトリビュートアンソロジー.オリジナルをすべて読んでいるわけではないのだけど,分かっていれば分かっているだけ,分からなくても分からないなりに楽しめる作品集だと思います.もう間もなく文庫版が出るのでこれから読もうというひとはこっちを買ったほうがいいかもしれないね.