手代木正太郎 『柳生浪句剣』 (講談社BOX)

柳生浪句剣 (講談社BOX)

柳生浪句剣 (講談社BOX)

ひ、ふ、み、よ!
勘定(カウント)とともに爆発する(サウンド)
狭い麗舞(ライブ)小屋の中の熱狂した若い浪人、町奴、旗本奴が一斉に飛び跳ねる。
拍子(リズム)に合わせてぎらぎらと点滅する色とりどりの電起耀(エレキテル)提灯の照明(ライト)と合わせ、叫び狂う観客たち(オーディエンス)の極彩色の装束が、この地下空間を原色の地獄へと変えてゆく。
彼らの視線の先、四畳半ほどの小さな舞台(ステージ)は、浪人蛮徒(バンド)の演奏によって夢幻の熱狂空間と化していた。

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「……これが剣か?」
それは、長年小野忠常が抱いていた剣術観とは、あまりにかけ離れたものだった。剣術とは人を殺傷する術。その荒野のように殺伐とした思想こそが、この剣客の剣だった。
「何と自由で華麗で力強いことか。さながら……」
小野忠常は、微かだが笑った。
「嵐に花が舞うようだ」

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「貿易将軍」徳川家康から三代による積極的な開国政策の結果,江戸には新しい文化が芽生えつつあった.痩せた不毛の土地だった原宿は,浪句家(ロッカー)や麗舞(ライブ)小屋が集まる「あんぐら」(暗愚らが転じて)と呼ばれる独自の文化が栄えていた.浪句家の柳生六丸は,兄の十兵衛から,宮本武蔵を名乗る何者かが柳生の門弟を殺して回っていることを知らされる.
第 9 回講談社BOX新人賞Talents受賞作.ムチャクチャ面白かった! 夜な夜な柳生を斬って回る六人の宮本武蔵,二刀を操る佐々木小次郎,吉岡,柳生,宮本の三家をめぐる怨念…….寺が嫌で逃げ出した,少年時代の列堂義仙をモデルにした主人公や,謎めいた美少女舞花,厳しくも優しい兄の柳生十兵衛といったキャラクターも非常に魅力的.電起耀(エレキテル)車椅子につながれてスパゲッティ状態の家光の前で催される短銃対刀の御前試合とか,非常にパンクな描写もあったりするのだけど,調べてみると個々のエピソードが意外と史実に忠実なのも面白いところ.テーマはロック=剣=自由なのだけども,作中の言葉を借りて,電起耀(エレキテル)パンクとでも呼べばいいかな.山風伝奇の系図に続くと思われる描写に,少年漫画風の物語がこれでもかとハマっている.この上なくスカッとする,かっこいい青春小説でした.