ルイ=クロード・ド・サン=マルタン/今野喜和人訳 『クロコディル 一八世紀パリを襲った鰐の怪物』 (国書刊行会)

クロコディル―一八世紀パリを襲った鰐の怪物

クロコディル―一八世紀パリを襲った鰐の怪物

だが、我輩の苦労が大いに報われる時がやって来よう。理性が生まれ、やがて花開くのである。それは我輩のおかげなのだ。哲学の中から我に由来せぬ成分をすべて取り除き、哲学を復活させるのは我輩である。諸々の国民はこの畏れ多き恩恵に対し、我輩のために祭壇を立てて、声高らかに叫ぶであろう。クロコディル万歳! クロコディルに栄誉あれ! と」

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世界の終わりが近づいているという.破滅の予感に揺れる18世紀パリでは,スペイン人のロゾンに率いられた民衆が蜂起しつつあった.正規軍と反乱軍が戦うサブロンの野.そこに突如現れた全長約9万メートルの(クロコディル)が,両軍を合わせて呑みこんでしまう.
世界を形作るクロコディルとユダヤ人の能力者エレアザールの時空を超越した戦い.この世界は自分の身体から出来ている,学問の体系は自分が決めた,世界中の騒乱はすべて自分が関連していると言い放つクロコディルに,完全無欠のユダヤ人エレアザールさん(さん付けせざるを得ない)といったむちゃくちゃアクの強いキャラクターに,作者の主張を強く反映していると思われる小難しい言い合い,唐突に現れては消える幻想的場面.なるほど,帯に謳う「18世紀フランス最大の神秘思想家による奇書中の奇書」は嘘じゃない.時期的にフランス革命をまたいで書かれたとのことで,多分に時代を反映していると思うのだけど,どこまで前提知識が必要なのか,前提知識がない身なのでいまいちよく分からない.自己主張が強くて面倒くさい小説だなぁ,というのが正直な感想であります.