柴村仁 『宵鳴』 (講談社BOX)

宵鳴 (講談社BOX)

宵鳴 (講談社BOX)

体の芯に、冷たい何かがすっと滑り込んできた気がして、
カラカラは、この瞬間、己が呪われたことを悟った。

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毎年,秋の祭から大晦までの間だけ開かれる細蟹の市.手に入らないものはないというこの妖しい市に,旅芸人の父娘が〈うろくづ〉と呼ばれるものを求め訪れる.
『夜宵』感想)の直接の続篇.市守り(いもり)の役割を負った赤腹衆のサザを中心に,「細蟹の市」に関わる人々を描き出す.今回の主要人物であるカラカラとメトメの父娘がなかなか良いなあ.不老不死となった少女の孤独と,それに寄り添う男の嫉妬を,ものすごく鋭い言葉で切り出していると思うんだ.特に後者については読んだ瞬間,すっと腹の底に落ちてぞわってした.
物語を支える舞台である「市」の雰囲気も素晴らしい.カバーイラストも美しい(作中の雰囲気からすると綺麗すぎる気もするが).ティア・ドロップ・ティア,屍肉商,こえよしなど,世界観と物語とにかっちり結びついた登場人物たち.妖しいものが跋扈して薄暗くて汚らしく,それでいて現実との曖昧な境界線が非常に幻想的でもある.このあたりの雰囲気はミエヴィルの描く「都市」と似た部分も多い.対比してみると面白いんじゃないかなと思う.