石川博品 『ボクは再生数、ボクは死』 (エンターブレイン)

ボクは再生数、ボクは死

ボクは再生数、ボクは死

「死んで償え。そしてボクたちの動画の高評価を増やせ」

シノは銃口を男の口につっこんだ。

「クソ女」

男は口がふさがっているのに明瞭な口調で言う。視線がポンチョの下、何も穿いていない脚の間に行く。

「でもカワイイでしょ?」

2033年。しがない会社員、狩野忍は世界最大のVR空間、サブライム・スフィアで世界最高の美少女、シノとして。に日々入り浸っていた。ここで忍は世界最高の美少女、シノになる。高級娼婦のツユソラに恋をしたシノは、金を稼ぐために動画配信を始めることにする。

栃木県の片田舎から、世界最大のVR空間へ。世界一の美少女になるため、俺は日々紙おむつを穿く。現代を舞台にした由緒正しきヤクザ・セクシャル・サイバーパンク。当たり前のように振るわれる暴力と、日常の一部になったセックス。簡素で乾いた、それでいてロマンティックで人間臭さの垣間見えるテキストと複数のアイデンティティが、愛と魂の在り処について語る。

新しさ(VRとかMMO、Vtuber的な何かを経由した社会経済とか)と古くささ(あらすじ:電脳世界で惚れた高級娼婦を抱くため、俺は殺し稼業に手を染める)がないまぜになった描写が実に濃密で楽しい。連想したのはチャールズ・ストロスと攻殻機動隊かな。リーダビリティが非常に高く、450ページを超える厚さも気にならない。個人的には古いSFおじさん向けなのでは、と思ったけども、ガジェットとマクガフィンを使った現代の描き方は今まで読んだ小説でもトップクラスにうまい。30年後とかに読んだらだいぶ印象が変わってそうだな、という妙な感慨があった。良かったです。