佐藤悪糖 『君が笑うまで死ぬのをやめない 雨城町デッドデッド』 (講談社タイガ)

私の手を握ったサンタクロースは、ニコリとも笑わなかった。彼女の手は震えていた。

「これから君は、自分の手で犠牲にするものを選ばなければならない。きっと途方もない地獄を見るだろう。望みを保ち続けるのは難しく、つかみ取るにはさらなる困難が待ち受ける。だとしても、私は、いつかの君に幸せになってほしい。それだけが私の願いだ」

大学進学を機に念願の一人暮らしを始めた灰原雅人。その引越し先のアパートには、黒い女の悪霊が住んでいた。出会い頭に刺し殺された雅人は、サンタクロースを名乗る赤い女に生き返らせられる。これが灰原と悪霊とサンタクロース、奇妙な三人での同居生活の始まりだった。

自分を殺した女を救うため、幸せを追い求めて俺は死に続けることを決めた。ルールは一つ、幸福には総量がある。黒い女とサンタクロースの尋常ではない関係、章ごとに何度も何度も繰り返される死とループ、その謎を追う灰原と仲間たち。タイトルから想像できるとおりのループもの、ではあるのだけど、タイムループものとしても青春ものとしても、予想していなかった方向から刺された。他人の、そして友人の幸福のために陽気に死に続ける主人公が、だんだんとかっこよく、尊いものに見えてくる。帯にある“時をかける馬鹿”という文句が言い得て妙。とても良かったです。