水坂不適合 『ひきこもり姫を歌わせたいっ!』 (ガガガ文庫)

ひきこもり姫を歌わせたいっ! (ガガガ文庫)

ひきこもり姫を歌わせたいっ! (ガガガ文庫)

もっと。もっと音楽に純粋にならないと。

俺は天才じゃないのだから。

人が休んでいる間に努力して、がんばってる間だってそれ以上に。

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蒼山礼人はロックで食っていくことを夢見ている高校生.しかし,彼は超絶的な音痴だった.そんな礼人はある日「本物」の歌声を持つ少女,灯坂遙奈と出会う.しかし,彼女は「ひきこもり姫」と呼ばれる不登校少女だった.

信じていればなれるものになれる,と信じて突き進む少年が出会った天才少女はひきこもりでした.第11回小学館ライトノベル大賞ガガガ賞受賞作のバンド,青春,ロックンロールなボーイ・ミーツ・ガール.努力では才能をひっくり返せないかもしれないけど,それでも得られるものはいろいろあるのだ,みたいな.ストーリーはオーソドックスな方だと思うけど,押さえるべきところはしっかり押さえて,言うべきことははっきり言う.驚くような展開はないけど,抑揚の効いた青春小説だったと思います.

遍柳一 『平浦ファミリズム』 (ガガガ文庫)

平浦ファミリズム (ガガガ文庫)

平浦ファミリズム (ガガガ文庫)

「傷つけられることもある。裏切られることだってあるかもしれない。だが、そうやって何度も信じて行動し続けた先に、それでも君の隣にいてくれる人たちがいたとしたら、それが君にとっての、かけがえのない他人なんだよ」

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5年前,ベンチャー企業の社長だった母を亡くした平浦一慶.フリーターの父,トランスジェンダーの姉,ひきこもりの妹とともに,4人だけの家族として生きていた.学校生活は退屈だが,この家族さえいれば幸福だった.

家族さえいれば他に誰もいらない,そう思っていた.第11回小学館ライトノベル大賞ガガガ大賞受賞作.先生やクラスメイトといった「他人」に徹底して無関心かつ無期待な主人公の語りがひたすら青臭くて,章題を哲学や政治学から取っているのも含め,ただただしゃらくさい.だがそこが良い,みたいな青春小説であり家族小説.自分たちだけの幸福で完結し,内側に閉じていた家族が,ある事件をきっかけに社会に開いていく.崩壊した家族がまとまっていく家族ものはよくあるんだけど,逆のパターンはわりと珍しいと思う.

他人の善意は信じず,他人の正義は自己満足のナルシシズム.そういうものを,本当に徹底して,冷ややかで尊大な視線から描いているのがすごいと思う.そんな感じなので,ひとによって好みが割れそうな気がする.個人的にはとても良かったと思うし,次回作にも期待したいと思っております.

江波光則 『屈折する星屑』 (ハヤカワ文庫JA)

屈折する星屑 (ハヤカワ文庫JA)

屈折する星屑 (ハヤカワ文庫JA)

何も起きないと思っていた。何かを起こさなければやっていられないと考えていた。

暴走を繰り返し薬物と酒に酔い、また暴走して燃やし尽くさなければ何一つ愉しくも何ともない憂鬱だけが支配している世界だと思っていた。それほど世界は甘くなかった。起きる時は起きてしまう。

それが今のこの有様で、そして今の俺は酩酊病どころか、ただの間抜けに過ぎなかった。

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ここは太陽系に浮かぶ廃棄指定済の円筒形コロニー.ここで生まれ育ったヘイウッドとキャットはホバーバイクにまたがり,5つの人工太陽と円筒形の地面への命知らずのチキンレースを繰り返していた.鬱屈した毎日を送る彼らの前に,火星から亡命してきた軍人ジャクリーンが現れ,停滞したコロニーが動きはじめる.

“地球に落ちて来た男、デヴィッド・ボウイに捧ぐ。”.読み終わって帯を見返すまで気づかなかったのだけど,固有名詞のほとんどはデヴィッド・ボウイから取っているのね.おそらくストーリーもリスペクトしているんだろうけど,自分にはほぼわからない.申し訳ない.

何もない片田舎での,恋人とバイクだけにかまけていた日々が,外から現れた人間によって終わりを告げる.王道の青春グラフィティだと思う.円筒形コロニーという,使い古されたモチーフがまた雰囲気を出している.しかし,ちっぽけで古びた世界が打ち破られる変化やカタルシスより,どうしようもないやるせなさが全体にまとわりついている(読めば理由はわかるけど).わかりやすいけど単純ではない,鬱屈した行動原理が本当に息苦しい.王道で,良い青春グラフィティだと思います.

縹けいか 『異世界監獄√楽園化計画 ―絶対無罪で指名手配犯の俺と〈属性:人食い〉のハンニバルガール―』 (ダッシュエックス文庫)

「人として生きる以上、調和は大切だ。人間は個体として見れば非常にか弱く、弱肉強食の世界ではとうてい生き抜けない存在――のはずだった。しかし生き抜き、進化をしたのだ。それは人類に“協調性”という、他の動物にはない能力が備わっていたからだ。人間は協力し合わなければならない。社会を形成しなければならない」
「なら、人類を進化させた“協調性”や“社会”が、これから人類を滅ぼすと予言してあげるよ」
「……なるほど、よくわかった。君は天才かもしれないが、とても愚かだ」

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記憶喪失の少年,トウは,気がつくとどこかの闘技場のような場所にいた.ここは様々な世界の凶悪犯罪者を収監した異世界監獄サクラメリス.トウは「史上最悪の指名手配犯」として,ここに囚われることになったのだという.
ここにいるのは人食い少女,殺人鬼,剣豪,聖女,大泥棒.異世界の交差点である監獄に隠されたとある事実について.大罪人の名前を持った異能力だったり,監獄を中心に形成された異世界の街だったり,オーソドックスでありつつ,いろいろと詰め込もうとしているのがなんとなくわかる.根幹に関わる大掛かりなトリックはミステリ的で面白いのだけど,意外とあっさりとすませた感があってちょっともったいない.嫌いではないけど,尖った長いタイトルのわりには印象が薄い作品ではありました.

日日日 『狂乱家族日記 番外そのきゅう』 (ファミ通文庫)

「周りをよう見ぃ――なぁんか、おかしなことになってるねんけど?」
その言葉に嫌な予感をおぼえ、僕は上体を起こし、あらためて周囲を眺めました。
そして絶句します。
僕たちは、見覚えのない、白一色の狭苦しい密室のなかにいました。

賽も人生も投げられた!

アニメDVDの特典小説,Web掲載まとめに,書き下ろしの後日譚を加えた,最後の番外編にして本当の最終巻.凶華と凰火の子供である乱崎十周年(でぃけいど)と死神四番こと小紅のその後を描いた「狂乱家族だった、僕たちへ」が良かったかな.お約束のようにギャグとしっとりとが詰め込まれた,集大成みたいな短篇.全24冊,お疲れ様でした.