川岸殴魚 『勇者と勇者と勇者と勇者 5』 (ガガガ文庫)

かつて、といってもたかだか数週間前だが、ルディは勇者としていかに生きるべきか迷っていた時期があった。

そんな折にルディはロットと出会った。

そしてロットの自由奔放でなにものにもとらわれない古き良き勇者のスタイルに憧れ、行動を共にした。他人の家に勝手に上がり込み、クローゼットをあさり、道具屋の宝箱を無断で開ける。そんな日々……。

その結果、かなりの速度で憧れは消え、むしろ軽蔑の念すら湧き起こったのだった。

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馬鹿の賢者,ソニアが再びコーポ勇者を訪れた.彼女はこの安アパートの地下にかつての魔王城が眠っていると馬鹿なことを言う.そんな馬鹿なと笑うルディだったが,床板の下の螺旋階段の先には謎の広大な空間が広がっていた.

「勇者あまりの時代」を描いたコメディの最終巻にして,薬物依存の悪循環の図をテキストだけで表現した最初の小説だと思う.物件の支配者たる大家といい,“どこの業界にもいる、なんだかわからないけど、偉い人の周りでフラフラしているフリーのおじさん的ポジション”といい,いつもながら,着眼点とギャグの切れはほんとにすごいと思うし,ちゃんとハッピーエンドで〆てくれるのもいい.「邪神大沼」,「人生」に引き続き,安定して楽しゅうございました.次回作も楽しみにしております.

枯野瑛 『終末なにしてますか? もう一度だけ、会えますか? #4』 (スニーカー文庫)

悲しい話は、聞き飽きたのだ。絶えた未来の話に顔を伏せるのは、もう嫌なのだ。だから、この閉塞感に押しつぶされそうな状況の中に少しでも明るい材料があるのならと、全力で食いついた。

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フェオドールとラキシュは逃亡した.ふたりを追う任務を負ったティアットは,潜入先の11番浮遊島,コリナディルーチェ市へと赴く.そこはかつての「エルピス事変」が起こった古い街だった.

始まりの事件の街に,始まりのきっかけとなる人々が集まり,黄金妖精(レプラカーン)の秘密がまたひとつ明らかになる.もう語ることもあまりないのだけど,ただただ「終わり」を描いてきた物語も終わりが近いのかな.いくつかの伏線を引きながら,静かにゆっくり終わりに向かっていく感覚.と言ってもあとひと波乱ふた波乱はありそうだし,良い意味でも悪い意味でも裏切ってくれそうな雰囲気はひしひし感じるんだけどね.

紫野一歩 『あのねこのまちあのねこのまち 壱』 (講談社ラノベ文庫)

あのねこのまちあのねこのまち 壱 (講談社ラノベ文庫)

あのねこのまちあのねこのまち 壱 (講談社ラノベ文庫)

今日この日、あの猫の町に電車は停まる。

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地図にあるのにたどり着けず,駅があるのに電車が停まらない町,夕霧町.妖怪たちも住むこの町では,一匹の猫又がよろず相談屋を営んでいた.たまたまこの町にたどり着いてしまった高校生,幸一は,ある相談を持ちかけたことで,猫又のフミに振り回されることになる.

少し不思議な町の優しく悲しい怪異譚.第6回講談社ラノベチャレンジカップ大賞受賞作.なんというか雰囲気が抜群に良く,物語にすいっと入れる.妖怪の商店街といい,みんなを幸せにしたいと言うわりに私生活がだらしない猫又フミといい,良い具合に力の抜けたテキストと良く噛み合って,ふわふわしつつしっかりとした存在感を出していると思う.ただ,後半の展開は好かない.というか前半二話と後半二話で物語の方向性自体がけっこう変わっていた気がするんだよね.タイトルに「壱」とあるから,続編でフォローするのかもしれないけど,救いがまったくない話と読んでしまった.個人の好みの問題かもしれないけど,前半が良かっただけに,後味が悪すぎて…….

伊崎喬助 『RWBY the Session』 (ガガガ文庫)

RWBY the Session (ガガガ文庫) (ガガガ文庫 い 7-4)

RWBY the Session (ガガガ文庫) (ガガガ文庫 い 7-4)

「相手のことを知ればわかり合えるというのは、都合のいい幻想だ。知るほどに生まれる断絶もある」

Amazon | RWBY the Session (ガガガ文庫) (ガガガ文庫 い 7-4) | 伊崎 喬助, ヤスダ スズヒト, Monty Oum & Rooster Teeth Productions | ライトノベル 通販

夏季休暇を南国の島で過ごすことになったRWBYとJNPRの8人.多数のドローンがもてなすリゾート施設を訪れた彼らだったが,とあるいさかいから,ふたつのチームは混成の即席チームに分かれて行動することになる.

RWBY』の公式ノベライズ.Volume1とVolume2の間の話とのことだけど,原作を見ていないしストーリー自体もまったく知らないまま読んだので関連についてはよくわからない.申し訳ない.

そこは置いておいて.物語はまさに王道の活劇というか,バディものならぬチームものというか,非常に痛快なものになっている.何よりキャラクターの個性が強い.一気に8人以上のキャラクターが出てくるので,原作を知らないと最初は戸惑うのだけど,いちいち個性が強いのですぐに区別がつくようになるし,愛着が湧くようになる.このがやがや感はまさに「Session」.題材的に,作者にはうってつけのノベライズだったのではないかな.原作が好きなひとならおそらく楽しめると思うし,デビュー作(感想)が好きで買った自分のような者でも楽しめると思う.良いものでした.

白樺みひゃえる 『世界の終わりに問う賛歌』 (ガガガ文庫)

世界の終わりに問う賛歌 (ガガガ文庫)

世界の終わりに問う賛歌 (ガガガ文庫)

「……先生は、自分が失敗した原因はなんだと思いますか」

「そうだな、いくつかあるが……」

思案顔をし、言った。

「一番は炉心が人間だったこと、かな」

世界の終わりに問う賛歌 (ガガガ文庫) | 白樺 みひゃえる |本 | 通販 | Amazon

魔導が衰退し,世界には科学技術が発達しつつあった.ヴィルトハイムファミリーの構成員である拷問官,ブルクハルトは,相談役(コンシリエーレ)から任務を与えられる.それは,「次世代型発魔炉」の開発プロジェクトに参加し,とある少女をできるだけ長い間殺さずに痛めつけることだった.

第11回小学館ライトノベル大賞審査員特別賞受賞作.あらすじを読んでSFかファンタジーかな,と思っていたら,エネルギー問題解決のため,拷問相手をいかに殺さず長期運用するか,プロジェクトで取り組むのが物語の柱だという.思わぬところから話が始まってびっくりしたのだけど,意欲的すぎるテーマにあっという間に引き込まれた.拷問にペインコントロールの概念を持ち込むのも驚いたのだけど,ひょっとして拷問業界では一般的なんだろうか.

思わせぶりな伏線(のようなもの)が回収されずに置かれたり,全体的にとっ散らかった印象も強い.特に後半は荒っぽいのだけど,意欲的なテーマをごちゃっとぶち込んだ作者の姿勢は買える.良い意味での新人らしい勢いがある.楽しゅうございました.