牧野圭祐 『月とライカと吸血姫2』 (ガガガ文庫)

《史上初の宇宙飛行士に、人類の勝利に、盛大な拍手を!》

街中が割れ返るような拍手に包まれる中で、イリナは異様な孤独に突き落とされた。

――私は、何なの?

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ノスフェラトゥ計画」を成功させたレフは,宇宙飛行士候補生に復帰を許される.秘密主義が徹底された共和国体制の下,「人類最初の宇宙飛行士」を目指して訓練に明け暮れるレフ.一方で,計画の「実験体」だったイリナには不穏な影が忍び寄っていた.

宇宙開発競争の影に隠された歴史,あるいは吸血鬼の少女と人類の英雄になった宇宙飛行士の物語.前回で宇宙に行けたのに,同じテーマで何をやるんだろうと思いながら読みはじめた.実際,ツィルニトラ共和国連邦の秘密主義だったり,その下での厳しい訓練だったり,大まかに描かれることはほぼそのままではある.先行きのまったく見えない日々.ひとつの計画が終わり,別々になったふたり.事実が隠されたまま,「人類最初の宇宙飛行士」になってしまったレフの葛藤.驚くような何かがあるわけではないんだけど,ひとつひとつの出来事を,とても丁寧に積み重ねてドラマを作っている.それだけならそれなり……,だったんだけど,クライマックスの転換が見事で印象が変わった.これも,想像できないラストではないんだけど,秘密主義国家という舞台を活かした,これ以上ない鮮やかなものだったと思う.良いものでした.