ごぉ 『SILENTWORLD』 (アスキー・メディアワークス)

SILENTWORLD

SILENTWORLD

「問題は、不正共振が多く本来の時間膨張波を正確に検出できないことだった。ここで最初の話に戻ろうか。そのタンパク質をコードしている遺伝子――レゾネーター遺伝子は、進化の過程でその塩基配列が変異し機能のほとんどを喪失してしまっていたんだ。人類には不要と判断されてな。要は、件の失われた遺伝子群の一つだったというわけさ」

普通の高校生,羽鳥健人にはある秘密があった.ある時から街に現れた連続通り魔,「サイレントキラー」が自分と同じ能力を持っていると予感した健人は,その足取りを追う.そこで健人は,自分と同じ能力を持つ少女,世良絵里花と出会う.

フルカラーのイラストと4コマ漫画が多めの「SFサスペンスノベル」.同じ作者による『ひまわり』,『ISLAND』の外伝でもあるらしい.いまいちピンとこないところがあったのはどちらにも触れていないのが原因かもしれない(それらしい固有名詞はわかった).

連載の都合もあったんだろうけど,話の展開はかなり早い.唐突に場面が変わり過ぎて,置いていかれることも少々.しかしオーバークロックこと超加速能力への理屈付けや仕掛けの使い方は悪くないと思う.ちょっとネタバレになるけど,『時空のゆりかご』(感想)とまったく同じ仕掛けが使われている.同じ境遇を経ても,着地点がだいぶ違ってくるのが興味深いところ.東西の違いなのか対象読者の違いなのか.暇があれば読み比べてみるのもいいかもよ.

西条陽 『世界の果てのランダム・ウォーカー』 (電撃文庫)

世界の果てのランダム・ウォーカー (電撃文庫)

世界の果てのランダム・ウォーカー (電撃文庫)

「アリス、それを好奇心というんだよ」

ヨキはいう。

「大切にするといい」

ここにあるのは広大な世界と,その上空に存在する天空国家セントラル.セントラルから派遣された調査員のヨキとシュカは,それぞれの職務と己の好奇心と目的の赴くまま,世界を旅して調査をする.

まるで生物をそのまま固めたかのように精密な石像の謎,砂漠に七日間で誕生した都市の秘密,肉体が銀色の鉱物と化す病気の意味…….第24回電撃小説大賞金賞受賞作は,広大な世界に散らばる少し不思議を探る短篇連作.SFのようであり,ファンタジーのようでもある.最終的にはモノリスを探す旅の話になるのでSFなのかなと思うんだけど,その割には「デジタル化した意識」をこれ以上ないくらいめたくそに否定しているのよな.興味深いところではあるんだけど,リアリティレベルが短篇ごとに不安定で,作者の考えてることの立脚点が見えないのが個人的にとても気になった.と言っても良いところも多いし,好きなひとはおそらくすごく好きになる作品だと思う.

葉月文 『Hello, Hello and Hello』 (電撃文庫)

Hello,Hello and Hello (電撃文庫)

Hello,Hello and Hello (電撃文庫)

これは僕が失った、二百十四回にも及ぶ一週間の恋の話だ。

そして――

これはわたしが手にした、四年に及ぶたった一度きりの恋の話。

空に吠えた。

世界に叫んだ。

涙があふれていた。

少女のことを知っている人は、もうどこにもいない。

少女は、わたしは、この世界で独りだ。

連続した四年間を生きる少年ハルのたった一度きりの恋と,一週間ごとにリセットされる少女ユキの四年に及ぶ恋.214回の「初めまして」が交わされた,たったひとつの出会いを描く,第24回電撃小説大賞金賞受賞作.ざっくりと言うとループものになるのかな.SFだと思うと事件が起こるまでの経緯が気に入らないのだけど,やりたいことはよくわかる.ふたりのすれ違いが大きくなり,終わっていく仕掛けは切ないもの.もやもやするものは残るけど,悪くないラブストーリーだったと思います.

瘤久保慎司 『錆喰いビスコ』 (電撃文庫)

錆喰いビスコ (電撃文庫)

錆喰いビスコ (電撃文庫)

「お前は、俺よりずっと才能豊かで……人に、必要とされる人間だ。この先も、ずっとな」

ビスコは最後に一瞥をくれて、外套を翻す。

「先に死ぬとしたら、俺だ。お前はそこにいろ……すぐ、帰ってくる」

吹き荒れる《錆び風》により,文明は崩壊し,人類は滅びの危機に瀕していた.賞金首の赤星ビスコは,《錆喰い》と呼ばれるキノコを求めて師匠のジャビ,大蟹のアクタガワとともに旅をしていた.道中,ビスコは忌浜県で医者の猫柳ミロと出会い,成り行きで同道することになる.

第24回電撃小説大賞銀賞受賞作.錆に覆われたポストアポカリプスな日本を舞台にした少年マンガみたいな読み応えの冒険もの.読んでいくとナウシカ,「メタルマックス」,『ニンジャスレイヤー』,『トライガン』といったあたりが次々と思い浮かぶ.生き生きしたキャラクターといい,明快な勧善懲悪といい,わかりやすく大きなアクションといい,荒廃しながらも魅力的な世界(東日本)といい,良い意味で少年マンガを読んでいるような気分になる.イラストレーターが二人もついているし見開きイラストが複数あるところを見ても,ビジュアル面で力を入れているんだろうな.

バディものでもあるのだけど,バディものというには愛が深い.ほぼBLに足を突っ込んでいると思う.キャラクターの中でもアクタガワ(大蟹)が妙にかわいいのが楽しい.蟹というにはやたら巨大だしものは言わないし表情なんかも当然ないのに,これはどういうことだろう.良いものでした.上にあげたキーワードで気になるものがあれば読んでみるといい.続きも買わせていただきます.

うーぱー 『タタの魔法使い』 (電撃文庫)

タタの魔法使い (電撃文庫)

タタの魔法使い (電撃文庫)

二〇一五年七月二十二日。

夏休みを目前に控えた公立高校の校舎が、生徒と教職員ごと消えてしまうという不可解な事件が起きた。敷地内には、校舎の有った位置に深い穴が残るだけ。

失踪者494名,うち犠牲者は200名超.のちにハメルンの笛吹事件と呼ばれるようになった事件は,30日後に校舎が元の位置に現れたことで何の前触れもなく解決した.教職員を含むすべての生存者は,地球とは異なる世界を旅して戻ってきたのだという.彼らの身に,いったい何があったのか.

地球とは一日の長さも重力も異なり,言葉も通じない異世界.学校まるごと転移してしまったその先で何が起こり,どのように生き延びてきたか.インタビューを交えたルポルタージュ風に語っていく第24回電撃小説大賞大賞受賞作.異世界漂流教室かな,と思いながら読み進めたらマジで最後まで異世界漂流教室だった.高度な教育と良好な栄養状態で育った現代の高校生が,異世界においてどういうことができるのか.ところどころ鼻につくところはあるけど,なんだかんだと目の付け所がいいと思うし,とんちが効いている.なかなか異色の異世界ものだと思う.楽しゅうございました.