飛田雲之 『《このラブコメがすごい!!》堂々の三位!』 (ガガガ文庫)

《このラブコメがすごい!!》堂々の三位! (ガガガ文庫)

《このラブコメがすごい!!》堂々の三位! (ガガガ文庫)

物語はフィクションを利用して理想を描写するものだから、現実にはない「劇的な何か」を求めるところまでは理解できる。しかし、そういう人たちに限って「ご都合主義」を否定する。俺はいつもそこに、矛盾のようなものを感じていた。

実際に我が身を振り返ってみると、俺が現実で初めて異性を好きになったとき、その理由はまったくわからなかった。

姫宮新はライトノベル情報のまとめサイトを運営している高校生.クラスで目立たないようにしていた新だったが,ある日クラスメートの京月陽文に一目惚れしてしまう.その京月はペンネームでネット小説を発表しており,ネット民たちの悪ふざけによる炎上で,ネット小説賞《このラブコメがすごい!!》第一回の三位を受賞していた.折しも,第二回の《このラブコメがすごい!!》開催が近づきつつあるころのことだった.

ラノベ情報まとめサイト管理人とネット小説家の恋を描く,第12回小学館ライトノベル大賞ガガガ賞受賞作.創りたいものと売れるものとの乖離だったり,「面白さ」とはなんぞや,といったテーマは今では珍しいものではないと思う.理屈っぽさが徹底されていればいいのだけど少し中途半端,なおかつ説明台詞が非常に多い.好みもあるだろうけど,個人的には読みにくさが強かったかなあ.

冲方丁 『マルドゥック・アノニマス3』 (ハヤカワ文庫JA)

マルドゥック・アノニマス3 (ハヤカワ文庫JA)

マルドゥック・アノニマス3 (ハヤカワ文庫JA)

ただ見ていることに、とても耐えられなくなってしまった。

何かをしなければならなかった。そしてそれは正しい行いでなければならなかった。

あらゆる計画がそうした思いをもとに立てられたはずだった。なのに何もかも失ったあとで、心の底から願った正しさが自分の中のどこにも見つからないなんて――こんなにも苦しいことがほかにあるだろうか?

ハンターは共感(シンパシー)によって〈クインテット〉の勢力を拡大し,マルドゥック(シティ)の中枢へと食い込んでいく.一方,ドクター・イースターたちは,〈クインテット〉に対抗する“善の勢力”を結集させる.それをウフコックは見ていることしかできなかった.

いよいよシリーズ冒頭へとつながる第三巻.悪と善の全面対決が始まった.二大勢力が暗躍し,裏切り,正面からぶつかり合う.これを冲方丁がガリガリと書いているのが面白くないわけがない.「悪への共感(シンパシー)」のかっこよさと,「善行の孤独」を成し遂げるつらさに身を裂かれそうになる.わずかに見える希望にすがりつかざるを得ない.

深沢仁 『英国幻視の少年たち 6 フェアリー・ライド』 (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[ふ]4-6) 英国幻視の少年たち6: フェアリー・ライド (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[ふ]4-6) 英国幻視の少年たち6: フェアリー・ライド (ポプラ文庫ピュアフル)

「君、本当に、どんどんやりにくい相手になっていくね」

「褒め言葉か、それは」

「わからない」本当にわかっていないような口調だった。「事実だ」

「私はただ、あなたに悲しんでほしくないだけだ」

「悲しみとは、なに?」

「甘いに、ちかい。だがきっと、もう少し痛い」

カイはウィッツバリーで対ファンタズニックの仕事を学ぶことになった.ハロウィンが近づきつつある,とある晩.ランスの身に異変が起こり,それを聞いたエドがロンドンから訪れる.

魔女の視た未来のビジョンに従い,妖精の国へと向かうハロウィンの夜.シリーズはここでひと区切り,「いい意味で、完結って感じがしない」最終巻.「妖精の国」の描写や雰囲気は他に類を見ないものだと思う.皮肉とユーモアの効いたテキストに乗せられ,得体の知れない異様な緊張感ともの哀しさが全体に漂う,本当に良いシリーズだった.SFやファンタジーのひとも完結を機に読んでみるといいと思うよ.

宮入裕昂 『スカートのなかのひみつ。』 (電撃文庫)

スカートのなかのひみつ。 (電撃文庫)

スカートのなかのひみつ。 (電撃文庫)

「大事なことなんだ」

八坂が心外とばかり顔をしかめた。

「まさに君たちの象徴というべき花じゃないか。一見すると美しく、多面性があり、裏では金玉を隠し持つ」

高校生,天野翔の趣味は,女装して街を歩くこと.ある日のこと,同じクラスの八坂幸喜真に趣味がバレ,その場でお茶に誘われる.八坂との接近が,翔のその後を大きく変えることになる.

片や世界一の女装アイドルを目指して奮闘する男子高校生一団,片や時価八千万円のタイヤ盗難を目論む女子高生一団.そこにある接点とは.第24回電撃小説大賞最終選考作は,どこか森見登美彦チックな青春群像劇.しゃれたテキスト,とぼけた語り口で少し不思議.高校生の挫折と克服をストレートに描いており,ブロードウェイミュージカルみたいなところもあると感じた.語りはいくらかポエジーで,ときどきシンプルで力強い言葉が差し挟まれるのが良い.青臭くて,ストレートに胸に来るものがある.

群像劇と言いつつ,語り手の大半はふたりの人物に絞っている.その代わり(というべきなのか),登場人物の描写にかなり力を割いているように思った.というか,登場人物がほんとう誰も彼も個性的でかっこいいんだ.ほぼ主人公のような立ち位置にいる八坂幸喜真が特にかっこいい.体型が百キロを超えるデブで留年生,面白いことが大好きで名前の通り好奇心の塊,夢はサンタになって空を飛ぶこと.こんな男がこんなかっこいいキャラクターだと想像できるか.ストーリーテリングは荒削りなんだけど,タイトルの意味を理解した時の感覚は忘れがたい.良かった.今年一番かっこいい青春小説だったと思います.

「この先、君はもっと大きな困難に立ち向かうことになる。心は荒むだろうが、我慢することはない。好きなだけ暴れて、叫んで、迷惑かけて、そのあと思いっきり笑えばいい! 怪獣になったっていいじゃないか! 自分にしかできないことがあるなら、それは誰にとっても“可能性”なんだと思う!」

深見真 『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス』 (マッグガーデン)

小説 劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス

小説 劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス

シビュラシステムの根っこには、社会的ダーウィニズムと優生学がある。人間を社会にとって「有用」か「不要」に分類するシステム。不要な人間を排除することに疑問を覚えないことが「よき市民」の条件――しかし、ここで常守の理解は矛盾によって遮られる。それが「よき市民」の条件だというなら、なぜ自分の犯罪係数は悪化しないのか?

西暦2116年.包括的生涯福祉支援システム〈シビュラ〉によって幸福な社会を完成させた日本政府は,シビュラシステムを海外に輸出するようになっていた.長い内戦にあえいでいた東南アジア連合(SEAUn)は海上都市シャンバラフロートにシビュラシステムを採用し,束の間の平和を手にしていた.

常守朱と狡噛慎也は東南アジアで再会を果たす.脚本家自身による劇場版のノベライズ.システムによって生み出されたユートピアと,それを良しとしない者たちの抵抗という,暗い影に覆われた物語.オリジナルのアニメ(こちらもノベライズしか読んでませんが)と同様,古き良き香りを引き続き持ちつつ,劇場版らしい風呂敷を広げた,社会派SFエンターテイメントに仕上がっていると思う.さらっと読めるのに不思議な余韻が残る.アニメのノベライズというだけでなく,オールドSFファンにもおすすめできそうかな,と思いました.