九岡望 『サムライ・オーヴァドライブ ―桜花の殺陣―』 (電撃文庫)

サムライ・オーヴァドライブ ―桜花の殺陣― (電撃文庫)

サムライ・オーヴァドライブ ―桜花の殺陣― (電撃文庫)

いつ抜いたのか、いつ斬ったのか――最後の納刀に、鍔鳴りが一つ。

刀の柄尻に提げられた鈴が「凛」と唄い、血と桜花と妖刀の夜を締めくくった。

記憶はそこで終わる。

刀を持つ者が力を持つ現代.刀剣管理機構・SEASに所属する刃走の少年,月叢方助は,10年前に自分の命を救った業物・善鬼国綱の持ち主を護衛するよう命じられる.刀の主である季風21代目,季風鳴は,年端もいかない気弱な少女であり,かつての命の恩人の娘であった.

抜刀術と魔剣が激突する.まるで2時間のアクション映画を一気に見たような読み味の,サイバーパンクチックなアクション小説.スピーディな展開とけれん味のあるテキスト,章ごとにさし挟まれるアクションシーンの配分がいかにもそれっぽい.そもそものタイトルや,刃走(=ブレードランナー)からして意識してるんだろうな.エンターテイメント小説の真髄がぎゅっと詰まった,一巻完結小説のお手本のような一冊でした.



モナリザ・オーヴァドライヴ (ハヤカワ文庫SF)

モナリザ・オーヴァドライヴ (ハヤカワ文庫SF)

林星悟 『人形剣士(ドールブレイブ)は絶ち切れない 一等審問官ガルノーの監視記録』 (MF文庫J)

人形剣士<ドールブレイブ>は絶ち切れない 一等審問官ガルノーの監視記録 (MF文庫J)

人形剣士<ドールブレイブ>は絶ち切れない 一等審問官ガルノーの監視記録 (MF文庫J)

ここまで精巧に人間に似せて人形を作るなど、私が今まで見聞きしてきたこの世のどんな禁術をもってしても不可能。であるならば必然、本物の人間を無理矢理操っているか、少女の遺体を「人形」と言い張っているだけのこと。そのどちらも、筆舌に尽くしがたく人道を外れた、吐き気を催す悪魔の所業だ。許してはおけない。

「人形剣士」の異名を持つ剣士ブレイスは,右手に剣を持ち,左手で操り人形のリネットを操る独自の戦闘スタイルで知られていた.魔導審問会の一等審問官ガルノーは,「攻撃魔法」の使用疑惑があるブレイスを三ヶ月に渡って監視していた.どこからどう見ても人間の少女にしか見えないリネットのことを,ガルノーは端から人形だと信じていなかった.

人形剣士と人形の間にある絆と謎.第14回MF文庫Jライトノベル新人賞最優秀賞受賞作.ライトノベルのファンタジーとしてはオーソドックスなものだと思う.物語設定をシンプルにまとめた導入はわかりやすく,世界に入りやすい.のだけど,キャラクターが悪い意味で漫画的で,物語に対して浮いているというか,かなりくどい.申し訳ないけどうんざりする気持ちが先に来てしまった.

柞刈湯葉 『未来職安』 (双葉社)

未来職安

未来職安

目標に向かって努力できる、というのがずいぶん羨ましく感じる。わたし達の世代は、目標を持つこと自体がずいぶん遠い。

徹底的な自動化と効率化により,99%の「消費者」と1%の「生産者」に分かたれるようになったちょっと未来の社会.すべての国民に生活基本金が支給され,働かなくても生きていけるようになったものの,それでも働きたいという需要は健在.ここにはそんな「消費者」のための,怪しい民間職業安定所がありました.

いざ読んでみたら,「99%の〈消費者〉と1%の〈生産者〉」というキャッチコピーから想像していたのとだいぶ違っていた.脱臭されたいかにもな「近未来感」描写の中から,日本社会の面倒くささとせせこましさが強くにじみ出る.和風「第六ポンプ」というかゆるディストピアというか,強い皮肉と反体制小説みを感じる.『横浜駅SF』をより楽しく,より息苦しくした印象かな.今とは違った需要と供給,悩みがある近未来社会の描写はとても面白いのだけど,身近で想像しやすいぶん,同時にちょっとしんどくなる.個人的には作者の作品でいちばん好きな小説でした.



kanadai.hatenablog.jp

枯野瑛 『終末なにしてますか? もう一度だけ、会えますか? #07』 (スニーカー文庫)

終末なにしてますか? もう一度だけ、会えますか?#07 (角川スニーカー文庫)

終末なにしてますか? もう一度だけ、会えますか?#07 (角川スニーカー文庫)

ただの善人、ただ自分を犠牲にして世界を救おうとしている英雄であれば、まだましだった。それならば、善性を食い物にして戦っている護翼軍の悪辣さを責め立てる記事を書くことで、いくらでも上っ面の話題を狙えた。しかしあの少女は、そういうわかりやすい善性を見せてはくれなかった。

あれは、そう。

世界に対する、無関心だ。

堕鬼の少年は,ひとりの少女を英雄に仕立て上げ,世界から姿を消した.世界が英雄に守られていることを知った浮遊大陸群(レグル・エレ)はわずかな希望に湧く.パニバルとコロン,ふたりの黄金妖精(レプラカーン)は,〈十一番目の獣〉(クロワイヤンス)によって完全に侵食された39番浮遊島に立つ.

命の価値を理解しない存在は英雄たりうるのか.「心を繋いで束ねる」こと,信仰することの尊さと,その裏返しの危うさを描く,「終わったはずの物語の蛇足」.一冊の中でのテーマがはっきりしているせいか,心なしかロジカルにまとまっていたような気がする.死ぬことが当たり前だった重苦しい物語にも,ひょっとしたら何かしらの希望が芽生えつつある,のかもしれない.

2018年の二十冊

今年読んだ本のおおよそのベスト20順不同です.感想は検索からお願いいたします.

  1. 瘤久保慎司 『錆喰いビスコ』 (電撃文庫)
  2. 鳩見すた 『地球最後のゾンビ -NIGHT WITH THE LIVING DEAD-』 (電撃文庫)
  3. 古橋秀之 『百万光年のちょっと先』 (集英社)
  4. 石川宗生 『半分世界』 (創元日本SF叢書)
  5. 名倉編 『異セカイ系』 (講談社タイガ)
  6. 旭蓑雄 『青春デバッガーと恋する妄想 #拡散中』 (電撃文庫)
  7. 大澤めぐみ 『君は世界災厄の魔女、あるいはひとりぼっちの救世主』 (スニーカー文庫)
  8. 斜線堂有紀 『私が大好きな小説家を殺すまで』 (メディアワークス文庫)
  9. 高島雄哉 『ランドスケープと夏の定理』 (創元日本SF叢書)
  10. まほろ勇太 『絶対彼女作らせるガール!』 (MF文庫J)
  11. 手代木正太郎 『魔法医師の診療記録』 (ガガガ文庫)
  12. カミツキレイニー 『それでも異能兵器はラブコメがしたい』 (スニーカー文庫)
  13. かめのまぶた 『エートスの空から見上げる空 老人と女子高生』 (ファミ通文庫)
  14. 宮入裕昂 『スカートのなかのひみつ。』 (電撃文庫)
  15. 松村涼哉 『1パーセントの教室』 (電撃文庫)
  16. 深沢仁 『英国幻視の少年たち』 (ポプラ文庫ピュアフル)
  17. 遍柳一 『ハル遠カラジ』 (ガガガ文庫)
  18. 谷山走太 『ピンポンラバー』 (ガガガ文庫)
  19. 倉田タカシ 『うなぎばか』 (早川書房)
  20. 本田壱成 『終わらない夏のハローグッバイ』 (講談社タイガ)

錆喰いビスコ (電撃文庫) 地球最後のゾンビ -NIGHT WITH THE LIVING DEAD- (電撃文庫) 百万光年のちょっと先 (JUMP j BOOKS) 半分世界 (創元日本SF叢書) 異セカイ系 (講談社タイガ) 青春デバッガーと恋する妄想 #拡散中 (電撃文庫) 君は世界災厄の魔女、あるいはひとりぼっちの救世主 (角川スニーカー文庫) 私が大好きな小説家を殺すまで (メディアワークス文庫) ランドスケープと夏の定理 (創元日本SF叢書) 絶対彼女作らせるガール!2 (MF文庫J) 魔法医師の診療記録7 (ガガガ文庫) それでも異能兵器はラブコメがしたい (角川スニーカー文庫) エートスの窓から見上げる空 老人と女子高生 (ファミ通文庫) スカートのなかのひみつ。 (電撃文庫) 1パーセントの教室2 (電撃文庫) (P[ふ]4-6)英国幻視の少年たち6: フェアリー・ライド (ポプラ文庫ピュアフル) ハル遠カラジ (ガガガ文庫) ピンポンラバー (ガガガ文庫) うなぎばか 終わらない夏のハローグッバイ (講談社タイガ)