只野新人 『Vermillion 朱き強弓のエトランジェ2』 (このライトノベルがすごい!文庫)

Vermillion 朱き強弓のエトランジェ 2 (このライトノベルがすごい!文庫)

Vermillion 朱き強弓のエトランジェ 2 (このライトノベルがすごい!文庫)

「今は、不景気なのか」

「不景気というより、平和なんだよ。単純に武具を買う必要がねえ。戦役が終わってからしばらくは、ボロ装備の更新のためにまだ売れていたんだが、今は、なぁ……。使わないから壊れない、壊れないから替えが要らない、替えが要らないから新しいものは買わない。……ま、当然の流れだわな」

VRMMORPGにそっくりの世界に転移してしまったケイとアイリーン.城郭都市サティナにたどり着いたふたりは,矢じりを作る職人に世話になり,そこで平和がもたらした闇に直面することになる.

なろうコン大賞受賞作の二作目.ファンタジー風異世界の,ここぞというポイントをしっかり押さえた話つくりをしており,いかにもなゲーム世界の小説だった一巻と比較すると抜群に面白くなっていると思う.街の経済や治安しかり,街の内と外の関係しかり.クライマックスの,互いの手の内を探りつつ,忍術と魔術を駆使したタイマン勝負は確かな緊張感があった.

屋久ユウキ 『弱キャラ友崎くん Lv.6.5』 (ガガガ文庫)

弱キャラ友崎くん Lv.6.5 (ガガガ文庫)

弱キャラ友崎くん Lv.6.5 (ガガガ文庫)

こうして、ナチュラルめのメイクとかスタイルをよく見せる下着とか、女子高生にとって一番の武器である制服とか、そういうのをまるごと取っ払ったなにも着飾ってない素の自分と対峙するとき、ときどきこんなことを思う。

私ってたぶん、自分のことがあんまり好きじゃない。

これは病んでるとか自虐っていうよりも、漠然とそう思ってるってだけの感覚で。

登場人物の中学時代の話や,本編の幕間にあった出来事を描いた短編集.中学時代のパーフェクトヒロインが初めて男の子とおつきあいする「プレパーフェクトヒロインの憂鬱」,陸上部を引退したみみみの迷いを描く「振り切るためのスピードで」.六巻のラストと今月の七巻をつなぐ「そして、そのあとの話。」あたりが良かった.

作者の書く女の子の一人称の語りかなり好きだなあ.デビューから友崎くんしか書いていないから今まで気づきようがなかった.続きも楽しみだけど,女の子が主人公の長編もいつか読んでみたいなと思ったことでした.

さがら総 『教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 4時間目』 (MF文庫J)

教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 4時間目 (MF文庫J)

教え子に脅迫されるのは犯罪ですか? 4時間目 (MF文庫J)

この世界は、悔しいことばかりだ。

デビュー作を打ち切られるのは悔しい。三シリーズ目でも同じぐらい悔しい。同期と比べられるのは悔しい。編集長に宥められるのはなおさら悔しい。担当に負けを認めるのはもっと悔しい。

読者に、自分の書いた本が届かないことは、なにより悔しい。

「わたし、作家デビューが決まりました」.星花がWeb小説の賞を受賞して,MF文庫Jからデビューすることになった.天神は自分が同業者であることを隠したまま,星花の受賞パーティに赴く.大賞を取ったのは,これまた女子中学生作家の八谷屋夜弥.夜弥は受賞の挨拶で「自分は神である」とのたまい舞台上で脱ぎはじめる.

天才と凡人,ふたりのJC作家の間に挟まれた塾講師兼業作家の天神は,作家としてひとつの転機を迎える.才能と引き換えに大人としての態度を手に入れた作家が,同じ凡人の仲間を手に入れてもう一度立ち上がろうとする.なけなしの才能が尽きかけた大人と,すべてが最高だと無邪気に言い切る中学生の対比が切なく,才能あふれる者と凡庸な者の対比がまた切ない.

「才能」というテーマがテーマだけに,これまでの作品に比べると考えられないくらいストレートに言葉が出ているように感じる.ここまでのシリーズの流れから見るとかなり唐突な展開,というか語りに余裕がないように見えるのだけど,これは意図してやっていることなのかな.

さがら総 『変態王子と笑わない猫。13』 (MF文庫J)

変態王子と笑わない猫。13 (MF文庫J)

変態王子と笑わない猫。13 (MF文庫J)

思い出してほしいんだけど、読書とはほぼほぼ実質セックスなんだよね。意味がわからない人は、これを気にぼくらの話を読み返してほしい。

一本杉の丘で焼かれた12冊の横寺くんノート.ここで語られるのは,燃え残っていたわずかな断章.この世界だけの物語.

12巻で完結かと思っていたらまだ続いていた,「完全に完璧に全璧に幸せなエピローグ」.よくある体裁の短編集で,ハッピーエンドを迎えるのは嘘ではないのだけど,読み口はどこか切ない.ハッピーエンドの影には,他にありえた物語がいくつもあったのだな,みたいな.物語が終わったあとには,無限の物語が書き手と読み手の数だけ並行世界のように広がっているけれど,私のいる世界はここだけなのだ.びっくりしたのは,12冊の間ずっと「一人称を持たない」登場人物がメインにいたのが明かされたこと.その仕掛けに気づけていれば……! みたいな気持ちはある.本当に,「信用できないこと」にかけては信用できる作者だと思ったことよ.

松村涼哉 『15歳のテロリスト』 (メディアワークス文庫)

15歳のテロリスト (メディアワークス文庫)

15歳のテロリスト (メディアワークス文庫)

代表は度重なる質問に、次第に涙を流し始めた。

堪えきれなくなったのか、強い口調で発した。

「思う訳がないんだ。ある日突然、自分の周囲から犯罪者が出るなんて。そんなことを日頃から考えている人間がどこにいるんだ」

「すべて、吹き飛んでしまえ」.ひとりの少年が淡々と語るその犯行予告が動画共有サイトにアップロードされてから1時間後,JR新宿駅中央線ホームが爆発した.首謀者と目される少年の情報は,すぐにネットに出回った.都内の通信高校に通う15歳の少年,渡辺篤人.

15歳の少年はなぜテロリストになったのか.記者の安藤は,行方をくらました少年の足取りを追う.少年法と少年犯罪をめぐるサスペンス小説.家族を少年に奪われても,犯人を罰することができない被害者と被害者家族.法律に保護される加害者と加害者家族.無責任な正義の「声」は,被害者と加害者,両方を追い詰める.

これほどはっきりした問題意識を持つ小説は珍しいと思う.作中で語られる少年法の穴と少年犯罪の現状には取材の跡が見える.ただし,話運びはぎこちない.テロの真相は複雑というより不自然さや強引な印象が勝る.レーベルの都合もあるのだろうけど,このテーマで少年少女を主人公にした物語を描くのは難しかったんだろうな.250ページでは単純に紙幅が足りていない気もする.いつか,同じテーマで腰を据えて書いたものを読んでみたいかな.