高木敦史 『僕は君に爆弾を仕掛けたい。』 (スニーカー文庫)

僕は君に爆弾を仕掛けたい。 (角川スニーカー文庫)

僕は君に爆弾を仕掛けたい。 (角川スニーカー文庫)

「ねえ。これから先、しっかり手伝ってもらうからね」

「何を?」

「怪物退治。学校から悪意を消して、私が保健室登校を辞められる日が来るまで」

「私と目を合わせた人は、みんな私を嫌いになる」.ある理由から学校に爆弾を仕掛けた中学生の笹子は,保健室登校の小手毬に爆発前の爆弾を見つけられてしまう.小手毬の真っ黒な瞳には,フラットウッズの宇宙人が写っていた.

形を持った学校の「悪意」と謎を解決してゆく.少し不思議な学園ミステリ.とりあえずヒロインのマリマリこと小手毬真理花がかわいらしい.知らないひとの前では弱気なのに,保健室では好き勝手なかまってちゃん.主人公を振り回しながら,たまに暴走する.典型的なキャラクターではあるのだけど,落ち着きとひねくれが同居した作者独特の語りがうまく,読んでいていやみがない.キャラクターと事件の両方に,不思議な印象を残すラブコメ……にとどまらないなにかになっていると思う.なかなか一言で表しにくいのだけど,とりあえずいろんな層に読んでもらいたい気がしております.

吉野匠 『ユート 拉致から始まる異世界軍師2』 (このライトノベルがすごい!文庫)

ユート 拉致から始まる異世界軍師 2 (このライトノベルがすごい!文庫)

ユート 拉致から始まる異世界軍師 2 (このライトノベルがすごい!文庫)

この世界、つまりユートが今いるエンボス大陸だけではなく、ガルシア四大陸と呼ばれる広大な世界において、異世界から人が迷い込むのは、時折あることらしい。まあ、せいぜいが年に一度あるかないかの頻度ではあるが、皆無ではないのだ。

帝国との戦争で戦果を上げた秋山優人はリュトランゼ王国の軍務大臣へと出世を果たしていた.訪れた平和にすっかり暇を持て余すユートの前に,予言者を名乗る少女,ジュリエットが現れる.

昨年亡くなった吉野匠の異世界転生ファンタジー.露骨に説明調のハーレムもの.主人公の目線が露骨にエロい方向に向いている.ラッキースケベの描かれ方には2015年とは思えない古臭さがある.著作は何冊か読んでいるけれど,成長がぜんぜん見えなかったなあ…….

日下一郎 『妹戦記デバイシス』 (スマッシュ文庫)

妹戦記 デバイシス

妹戦記 デバイシス

(妹)(わたし)たちはね、関係性の上に構築された生命なの。

人類が物質上に構築された生命であるようにね。

そして、人類が生存のため、自己以外の物質からのエネルギーを必要とするように、(妹)(わたし)たちも自己以外の関係性からのエネルギーを必要とする。

世界が異世界からの侵略者アウタ・シスの侵略を受けてから3年.地球の半分は不可侵領域「妹圏(シス・ゾーン)」に覆われていた.「妹」の持つポテンシャルを妹機関(シス・ドライブ)に転用することに成功した人類は,最後の希望とともに「妹」への反攻を開始する.

人類と「妹」の最終戦争が始まる.どことなく『蒼穹のファフナー』っぽさを感じる侵略SF.自らを「妹」と強制認識させる侵略者アウタ・シス.見るだけで汚染し感染する概念侵略兵器.まったく異なる生態を持つ人類と「妹」との対話.オーソドックスながら水準以上にまとまっていると思うのだけど,ギャグのセンスが合わないのがつらい.気にしないひとは気にしないだろうけど,話の流れからあまりに浮いていた.妹力(シス・フォース)妹龍(マイバーン)という言葉遊びはいいとして,序文とかMSXへのこだわりとかはいらなかったよなあ.

三方行成 『流れよわが涙、と孔明は言った』 (ハヤカワ文庫JA)

流れよわが涙、と孔明は言った (ハヤカワ文庫JA)

流れよわが涙、と孔明は言った (ハヤカワ文庫JA)

さあさ、楽しいお話のはじまり始まり。

こいつは世にも珍しい、車とつがうドラゴンの物語だ。

馬謖の首がどうしても斬れない,やたら泣き虫な孔明が試行錯誤するうちに並行宇宙を渡ることになる表題作「流れよわが涙、と孔明は言った」から始まる,作者の第二短篇集.アルキメデスと「走れメロス」を合成したようなトンチキな「走れメデス」,折り紙と食堂をめぐる短篇内短篇「折り紙食堂」.「人は死んだら電柱になる」をテーマにしたアンソロジーからの抜粋「闇」は,闇とそこに潜む何者かに覆われた世界の静けさと不気味さが心に残る.ドラゴンカーセックスをファンタジーに仕立て上げた「竜とダイヤモンド」はこの短篇集のベストかな.ドラゴンの生態を描いていくことで,ドラゴンが自動車とセックスする理由をごく自然に物語に昇華している.まさかこんな風に感心してしんみりしてほんわかするいい話になっているとは.デビュー作『トランスヒューマンガンマ線バースト童話集』よりもバリエーションに富んでおり,個人的に好みの話が多かった.よかったです.



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野宮有 『マッド・バレット・アンダーグラウンド』 (電撃文庫)

マッド・バレット・アンダーグラウンド (電撃文庫)

マッド・バレット・アンダーグラウンド (電撃文庫)

心臓に棲む怪物に精神を侵食された銀使いには罪悪感を感じる機能はなく、殺人という禁忌を破ることに対する躊躇いも存在しないとされる。だとすれば、この胃の底に溜まる泥のような感情は俺の錯覚だ。心臓を締め付ける棘のような疑問は、タチの悪い幻影だ。

バレシア皇国エルレフ市イレッダ特別自治区――打ち捨てられた人工島,通称「成れの果ての街」.金次第で動く何でも屋の《銀使い》ラルフと相棒のリザは,組織から逃亡した少女娼婦を連れ戻すという依頼を受ける.

ひとりの少女をめぐる,銃と異能のハードボイルド・クライムアクション.第25回電撃小説大賞選考委員奨励賞受賞作.いろいろな設定を詰め込んでいるのは意欲的,ではあるのだけれど,その見せ方が最悪に近い.地の文とセリフの両方を使った説明調の文章を導入部に詰め込んでおり,更にハードボイルドを意識した文体との相性もかなり悪い.目が滑りまくる.

「買った」ものにしか働かない異能力を活かしたアイデアに,ゾンビを次々と砲弾のように飛ばすシーンのインパクト.見るべきところはちゃんとあるのだけど,導入が悪いおかげで話の核心に近づくまで悪い印象をずっと引きずってしまう(実際極端なのは最初の方だけ,だと思う).最終的にその印象をひっくり返す力があるかというと,うーんという.