手代木正太郎 『不死人の検屍人 ロザリア・バーネットの検屍録 骸骨城連続殺人事件』 (星海社FICTIONS)

不死人(アンデッド)の検屍人 ロザリア・バーネットの検屍録 骸骨城連続殺人事件 (星海社FICTIONS)

不死人(アンデッド)の検屍人 ロザリア・バーネットの検屍録 骸骨城連続殺人事件 (星海社FICTIONS)

「教えてくれ」ロザリアがコープスに語りかける。コープスの腹の内から、腐汁に塗れた臓器の一つを取り出した。赤子でもとり上げるような愛情のこもった手つきで、それを仔細に観察する。「おまえがどう生きてきて、どう死んだのか……。ああ。泣くな、泣くな。大丈夫だ。すぐに終わるんだから。そうしたら、ゆっくり休んでいいんだから」

普通なら、怖気を感じるような光景かもしれねえ。だが、俺はなぜか死者に語りかけ、腐肉を調べる少女の姿に、ある種の美しさみてえなもんを感じ、魅入ってしまっていた。

ヴァンパイアの血を引くと伝えられるエインズワース一族.その居城である〈骸骨城〉ことエインズワース城で,当主の花嫁候補が次々と怪死し,屍人(コープス)として復活する事件が発生する.城に招かれていたアンデッドハンターのクライヴは,アンデッド検屍人のロザリアと協力して事件の真相を探る.

通常の死者であれば当然受けられる死因の究明.アンデッドはそれを受けられずに焼却される.ファンタジー風の世界を舞台に,「アンデッドの尊厳」という概念と,医療の知識を導入した「暗黒怪奇ファンタジー」.ざっくり言うと「魔法医師の診療記録」をよりダークに,かつ新本格ミステリにした印象と言うかな.呪われた骸骨城,ヴァンパイアの血を引く一族,地下室に200年閉じ込められ続ける吸血鬼,オランジェリーに出現する幽霊と,ダークファンタジーの雰囲気と舞台づくりは十二分.横溝正史っぽさがある(山田風太郎風の語りもやっぱりある).

伝奇,ミステリ,ファンタジー,スプラッタがぎっしり詰まっている.これぞエンターテイメント小説.良いものでした.

鶴城東 『クラスメイトが使い魔になりまして』 (ガガガ文庫)

クラスメイトが使い魔になりまして (ガガガ文庫)

クラスメイトが使い魔になりまして (ガガガ文庫)

これはもう、おおよそ独身高齢な開業医などが住む部屋といえよう。

ブルジョワジィ。これが格差社会なのですか?

ここは国際魔術師協会付属学園日本校,境界干渉学部.昇級試験のさなかに起こったアクシデントによって,名門のお嬢様である藤原千影と魔人の魂が融合してしまう.さらに,やっと試験に合格するような落ちこぼれの生徒,芦屋想太の使い魔として契約.なし崩し的に同棲生活がスタートしてしまう.

第13回小学館ライトノベル大賞ガガガ賞&審査員特別賞受賞作.テンポのよい召喚士と使い魔の学園ラブコメ.この手の話の常として多種多様の女の子が登場するけど,良い意味でさっぱりと描いている.ハーレム成分がないとは言わないけども,友だちとしての側面が強い気がする.「詳しく知れば忘れてしまう」など,デビュー作なのにいくつも謎を残したままなのは正直あまり好かんところではあるなあ.ひとまず続きを追いかけようと思っております.

三月みどり 『ラブコメの神様なのに俺のラブコメを邪魔するの? だって好きなんだもん』 (MF文庫J)

ラブコメの神様なのに俺のラブコメを邪魔するの? だって好きなんだもん (MF文庫J)

ラブコメの神様なのに俺のラブコメを邪魔するの? だって好きなんだもん (MF文庫J)

これで十六回連続、謎の現象で告白が妨害されたことになる。

もうホント、なんで俺の告白ってこんなにも成功しないの。

せめて「お前のことが好きだ」くらい言わせて欲しいものだ。

高校生の優吾は同級生の天真陽毬に恋をしていた.しかし,勇気を持っていざ告白,という段階になると必ず不思議な現象が起こるため,思いを伝えることができずにいた.この現象を起こしていたのは転校生の月宮アリス,自称ラブコメの神様だった.

ラブコメのための現代ラブコメといった印象の,第14回MF文庫Jライトノベル新人賞佳作受賞作.基本的には女の子たちが可愛いだけの,他愛ない話ではある.しかしキャラクターは濃い.実の姉に恋するツンデレ妹やら,変態性癖を持つヒロイン(この設定必要ある?)やら,個性が強いというよりは業が深い.ほぼ期待通り,ある部分では期待以上.お気楽で楽しゅうございました.

紙城境介 『継母の連れ子が元カノだった2 たとえ恋人じゃなくたって』 (スニーカー文庫)

継母の連れ子が元カノだった2 たとえ恋人じゃなくたって (角川スニーカー文庫)

継母の連れ子が元カノだった2 たとえ恋人じゃなくたって (角川スニーカー文庫)

「……これが……わたし、ですか……!?」

「そうだよ」

「メスじゃないですか!」

「そうだよ。メスだよキミは」

元恋人同士なのに,親同士の再婚によってきょうだいになった伊理戸水斗と伊理戸結女.両親やクラスメイトの手前,ふたりはあくまでもきょうだい(時と場合で兄だったり姉だったり)として振る舞おうとしていた.そんなある日のこと,水斗は図書室で東頭いさなという層序と出会い,すぐに意気投合.結女としては気が気でない.

作者曰く「完全無敵系ヒロイン」,東頭いさな登場の巻.「今や恋人という関係に特別性はない」と断言する作者が書いた,かなり実験的なキャラクターだと思う.いかにもラブコメ的なことをやりながら,作中で「異世界人」と呼ばれる価値観を披露する.そもそも恋を知らないし,知ったところで失恋が不幸にはつながらない,という.キャラクターは単純にかわいいと思うしインパクトも強い.気楽に読めるけど,試みは新しいのかもしれない.そうでもないのかもしれない.まあこの巻まではカクヨムで読めるので,試しに読んでみるのもいいさね.



kakuyomu.jp

谷山走太 『ピンポンラバー3』 (ガガガ文庫)

ピンポンラバー (3) (ガガガ文庫)

ピンポンラバー (3) (ガガガ文庫)

敗北は誰のせいでもない。全部自分が未熟だったせいだ。

いつだって敗者にできることは二つ。抗うか、諦めるか。

だったらやることは決まっている。悔しさを糧に、努力を続けるしかない。次の勝利に繋げるために。そうすればきっと、あの敗北も必要だったと思えるときが来る。それだけを信じて。

季節は8月.翔星,瑠璃,椿の三人は全日本ユース選抜強化合宿に参加する.そこで翔星は,小学生の頃のライバルにしてインターハイ覇者の千波晴海と再会する.翔星がリハビリをしている間に晴海は大きく先に進んでいた.合宿最終日に発表される中国遠征メンバーの座を賭けて,幼なじみふたりは正面からぶつかりあう.

復活した『音速の鳥』(ソニックバード)に立ちはだかるインターハイ覇者『千技の使い手』(サウザンド・スキル),そしてその陰にあったもの.強豪が集った合宿の様子を描く第三巻.夏の強化合宿にライバルとの再会,さらなる強敵の出現と,熱血スポ根を王道で突き進む.卓球の楽しさを,そして試合の迫力と熱狂を,ここまでの熱量で描ける作家はジャンルを問わずともそうそういないはず.ただ,今回で少年マンガ的な部分が増えたというか,パワーインフレとある種のご都合主義が急速に進んだ印象があったのは気になった.リアリティレベルとケレン味のバランスは二巻までのほうが取れていたように思う.引き続き追いかけていきたいと思います.