深見真 『ガールズシンフォニー ~少女交響詩~』 (ファミ通文庫)

ガールズシンフォニー ~少女交響詩~ (ファミ通文庫)

ガールズシンフォニー ~少女交響詩~ (ファミ通文庫)

指揮をするのは好きだった。

でも戦いも争いも諍いも――とにかくひとが傷付くことは嫌いだった。

だからいつの間にか、音楽の指揮も好きではなくなっていた。

なぜならこの世界の音楽は、「力」であるから。

音楽が持つ力をめぐって,「音楽院」と「文明ギルド」が対立を続ける世界,ハルモニア.戦いを嫌う指揮者ベルタ・ワルターは戦火を避け旅を続けていた.路銀が底をつき,行き倒れ寸前になったところをヴィエンナ音楽院の理事長代理に拾わたベルタは,自分が何より嫌っていたコンバット・オーケストラの指揮を執ることになってしまう.

同名ゲームを小説化した百合ハーレム小説.刃牙ネタが唐突に挟まれたり,ガスを操る敵(女の子)の笑い声が「ガスガスガス」だったりと,全体的に激しいB級感が漂う.作者のお約束のひとつである銃器は今回出ないけれど,「音楽院の地下には拷問室があるのだ」と当たり前のように拷問の場面が挟まれるのはさすが.というか,「脚本・世界観設定」担当ということは,原作もこんな感じなんだろうか.ちょっと気になるけど,原作ゲームはリニューアルに向けて長期メンテナンス中のようですね.付録のシリアルコードをよく見たら有効期限が書いてないようなのだけど,オープンしたら使えるのかな.



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岡本タクヤ 『学園者! ~風紀委員と青春泥棒~』 (ガガガ文庫)

学園者! ?風紀委員と青春泥棒? (ガガガ文庫)

学園者! ?風紀委員と青春泥棒? (ガガガ文庫)

たとえば、優しい正論を言うことはできる。励ますことはできる。

この小さな世界の外側には、俺たちがまだ知らない広い世界がある。

高校生活なんて、人生でたった三年間のこと。

人生はまだ続く。その先で、もっと楽しいことがいくらでも待っているはずだ。

――それは、その通りなのだろう。

けれど、彼女は、一度しかないこの季節に何かを手に入れたかったのだ。

そして、それは叶わなかった。

総生徒数三千人を数えるマンモス高校,東天学園.トラブルシューター兼トラブルメーカーと呼ばれる風紀委員に所属する二年生の椎名良士は,帰国子女の新入生,天野美咲に出会う.天野は「最高の青春を過ごすには、どうすればいいですか?」と衒いなくまっすぐに問いかける.

皆の青春を守るため,そして「最高の青春」を見つけるために,風紀委員のコンビは学園を駆け回る.「学園」という舞台の特殊性を掘り下げて,そこで起こることを考えた青春小説になっていると思う.ここには三千人が詰め込まれていて,見える景色は皆違う.三年間しか通えない場所であり,卒業した先輩たちが残していったもの,これから自分が残すものがある.戦場であり楽園でもある.そして誰もが「最高の青春」を見つけられるとは限らない,という残酷さを描く.

刑事小説や探偵小説のフォーマットを使ったと言うだけあって,軽快かつスマートで読みやすいし,椎名と天野の凸凹コンビのやり取りがバディもののようで楽しい.何よりも,空気を読まない,どこまでもまっすぐな天野がかわいい.楽しくて,少ししんみりしてしまう.これぞ「学園モノ全部入りの青春学園物語」,でした.

枯野瑛 『終末なにしてますか?異伝 リーリァ・アスプレイ』 (スニーカー文庫)

終末なにしてますか?異伝 リーリァ・アスプレイ (角川スニーカー文庫)

終末なにしてますか?異伝 リーリァ・アスプレイ (角川スニーカー文庫)

――正規勇者(リーガル・ブレイブ)よ。貴様も、もはや、人と呼べるモノではないのだな。

聖剣セニオリスに認められた正規勇者(リーガル・ブレイブ)の少女,リーリァ・アスプレイ.戦いによって傷んだ聖剣のメンテナンスのため,海に浮かぶ国バゼルフィドルを訪ねる.

その力は人類を救うものであって,人間を救うものではなかった.「終末なにしてますか?」本編よりはるか昔,まだ人類がいた時代に存在した,不器用な勇者の少女の物語.そして,選ばれた者にしか使えない聖剣が世界に誕生した理由と,託された願いを描いたおとぎ話.

物語を背負う者にしかなれないとされる「勇者」にはどこか影がつきまとう.人類と世界を救う運命を負わされ,他にはなにもできないやるせなさがある.それにしても,存在が消滅してからどんどんヴィレムの存在感が強くなっていることよ.意図してやってるんだろうけど,もはやいなくなってからのほうが長いはずなのに,作中で定義される「勇者」の完成形に近づきつつあるという.次は異伝か本編か.お待ちしております.

森川智喜 『そのナイフでは殺せない』 (光文社)

そのナイフでは殺せない

そのナイフでは殺せない

この物語は残酷である。

いくら人を殺そうと一人の命も奪えぬ、できそこないのナイフの物語である。そのナイフを作ったのは、西洋で命を落とした殺人鬼の魂とされる。

プロの映画監督になることを夢見る大学生七沢は,旅行先で「人を殺すことのできないナイフ」を手に入れる.このナイフで作った「本物の死体」を映画撮影に利用していた七沢だったが,ある警部の息子を「殺して」しまうことによって,警部の執拗な捜査を受けることになる.

このナイフで殺した命は,次の16時32分が訪れた瞬間に一斉に生き返る.殺人鬼の魂が生み出したナイフをめぐる新本格ミステリ.感想をひとことで言うと「きが くるっとる」.三途川理シリーズの悪ふざけをぐっと濃密にした印象ではあるけど,このアイデアがこんな基地外じみた小説になるなんて想像できるかよ.

生き返ることを前提に殺人を繰り返す大学生の映画監督と,息子を殺された復讐心ともともとの正義感の暴走によって壊れてゆく女性警部の腹の探り合いが話の中心.生き返ることが分かったうえで犯される殺人は刑法上の罪に問えるのか.そもそもそれは「殺人」と呼ぶべきものなのか.……みたいな哲学的な話はそこそこに,ふたりの対決は果てなく加速し,狂っていく.ナチュラルに他人を見下したり独りよがりだったり,登場人物は脇役も含めて嫌なところが目立つので,その壊れていくさまを見るのはほかの探偵ものとは一味違うカタルシスがある.現時点での作者の最高傑作ではないかと思う.めちゃくちゃな怪作にして大傑作でした.

水沢夢 『俺、ツインテールになります。17』 (ガガガ文庫)

俺、ツインテールになります。 (17) (ガガガ文庫)

俺、ツインテールになります。 (17) (ガガガ文庫)

……何か俺、エレメリアンの心配をしてばかりだな。

世界を守るためにエレメリアンと戦っている俺たちツインテイルズだが……多くの局面で、そのエレメリアンに助けられているんだよな――。

テイルホワイトの誕生により,ツインテイルズはつかの間の平和を手に入れた.バレンタインの到来に浮かれ暴走する面々.その一方,最強最後のエレメリアンたちが世界への侵攻の準備を整えていた.

とうとう最終章へと突入の17巻.受け継がれる戦士の魂(ツインテール).家族の絆.婚期を焦っていた理由とその意味.ついにテイルレッドの正体へと近づくエレメリアンと,クライマックスへのお膳立ては整った.というかここまでが長かった.エレメリアンが減りすぎて作中でもダレた感じがあったし.どんな幕引きを見せてもらえるのか,楽しみにしてます.