大澤めぐみ 『Y田A子に世界は難しい』 (光文社文庫)

Y田A子に世界は難しい (光文社文庫)

Y田A子に世界は難しい (光文社文庫)

「私はロボットなので健康被害の心配がありませんから、放射能汚染区域や感染症リスクの高い場所など、人間には活動が難しい現場での仕事に適性が期待できます」

「いやでも戸籍上はただの十六歳の女子高生だから、普通の女子高生でもできるバイト以外に就くのは無理なんじゃないかな」

え? マジで? ロボットの利点ゼロ? さすがにアイデンティティクライシスだ。

ふたりの天才博士によって開発されたAI内蔵人型ロボット、瑛子は和井田家に居候していた。理由あって女子高生の姿をしている瑛子は、家族の勧めで高校に通うことになり、友達のいなそうな少女、風香と友達になることにする。

友達を作ったり、バイトをしたり、部活動をしたり、大家族の騒動に巻き込まれたり。Twitterと2ちゃんねるで情操を育んだ女子高生型ロボット、世界に足を踏み出す。第一印象は令和の『サザエさん』とでも言うのかな。作者独特の文体で語られるロボットの成長、人間の友情、家族愛、『ボボボーボ・ボーボボ』へのリスペクトにどんどん引き込まれていった。ここにはすべてが詰まっているし、人情と未来への希望に溢れている。人間よりも圧倒的に寿命の短いロボットに語り手を置きながら、いい意味で予想を裏切るラストもとても良かった。令和最新の人間讃歌であると思います。

赤城大空 『僕を成り上がらせようとする最強女師匠たちが育成方針を巡って修羅場2』 (ガガガ文庫)

「冒険者の仕事は基本的にモンスター退治だけれど……冒険者をやっていくうえで厄介なのは、モンスターよりむしろ人族だって感じることのほうが、私は多いかな」

レベル0の無職のままリスク4のモンスターを倒したことで、クロスは一気に注目の的になる。孤児院のボスとも和解し、新しい日常を送り始めたクロス。しかし、勇者や貴族、都市の持つ様々な思惑が、その周囲に忍び寄ってることには気づいていなかった。

世界最強の師匠三人に育て上げられる弟子。しかし、この世界は強いだけで生きていけるようにはできていなかった。異世界おねショタファンタジー第二巻。本当に怖いのはモンスターではなく人間なのだ、というよくある展開への、理由付けと話運びは悪くないと思う。いかにもゲーム的な説明は仕方ないかもしれないけど、細かい理屈を語りすぎず投げすぎず、良いバランス。非常にオーソドックスな話なので驚きはなく、引きは弱いかもしれない。引き続き読んでいくつもりですが、どういうものになるか。

紙城境介 『継母の連れ子が元カノだった6 あのとき言えなかった六つのこと』 (スニーカー文庫)

「どうしたんですか、結女さん? はふはふ」

「東頭さん……人ってどうやったらそんな恥知らずになれるの?」

「あれ? もしかしてわたし、痛烈な批判を受けてませんか?」

正直ラブラブしてるよりギスギスしてるカップルのほうが好きなので、水斗と結女も嫌味を言い合っている状態に戻せねえかなと隙あらば思っている。(作者プロフィールより)

季節は初秋。水斗と結女は、揃って文化祭実行委員に選ばれる。クラス企画の準備のため、一緒に活動する時間が増えるなか、元カップル、現きょうだいのふたりはそれぞれの思惑を抱えて行動する。

中学最後の文化祭で決別が決定的になった元恋人同士が、高校最初の文化祭で一緒になって考えたこと。語り手を入れ替えながら語られてゆく群像劇スタイルはいつもどおりではあるのだけど、文化祭準備から本番まで、後半へ向けてどんどんスピードアップしてゆく。異なる種類の人間だったふたり、互いへの好意と嫌悪、自己嫌悪が入り交じる感情。語られる気持ちはやたらとしゃっちょこばっており実に面倒くさい。袖の作者コメントといい、強いヒロインにはもっと強いヒロインをぶつければいいみたいな姿勢といい、本当に信頼できる作者だと思う。良いシリーズだと思います。

深雪深雪 『遥かなる月と僕たち人類のダイアログ』 (講談社ラノベ文庫)

「もう一度訊く。炭風はその人を――『どうやって』殺したんだ?」

ある放課後の帰り道。僕はクラスメイトの炭風凌香に声をかけられる。援助交際の噂を立てられていた彼女は、僕にその疑いを晴らすために協力してほしいという。ところが、教室で声をかけた炭風はその噂を肯定する。

秘密を抱えた彼女は月に呪われていた。タイトルを見てSFかと思ったら、同級生の少女と、人格を持った「月」のふたり(?)が高校生の少年がひたすら対話するラブストーリーだった。「青春ブタ野郎」を思い起こさせる導入には期待したのだけど、良かったのはそこまで。その後はとりとめのないオタクネタを挟みつつ、メリハリのない会話が続く。「月」の正体も驚くような何かがあるわけではなく、ページ数以上に長く感じられた。

宇佐楢春 『忘れえぬ魔女の物語』 (GA文庫)

忘れえぬ魔女の物語【電子特装版】 (GA文庫)

忘れえぬ魔女の物語【電子特装版】 (GA文庫)

「どうして泣いているの?」

彼女とわたしは別の生き物なんだ。人間は忘れる生き物で、忘れられないわたしは別の生き物。共通言語はない。使ってる言葉こそ同じだが、違う文法で機能している。

「ごめんね」

首を振るしかなかった。

高一の春、高校の入学式は3回繰り返された。わたし、相沢綾香がそのすべてで出会うことになる、生まれて初めての友達、稲葉未散は、将来魔法使いになるのだと言った。

第12回GA文庫大賞金賞受賞作。繰り返される「今日」、そのうちの一日だけが「採用」されて「昨日」になる。すべての記憶を持ったまま、たったひとりでその時間を生きてきた「魔女」は、自称「魔法使い」の少女と友達になる。わかりやすく言えばセカイ系百合SFというのかな。まるで絵を描くように繰り返される時間とすれ違うふたりの少女、といういかにもそれらしいテーマではあるのだけど、75年近くの人生を送ってきた15歳の魔女の苦悩を泥臭く泥臭く描いているのがそれ以上に印象に残る。