陸秋槎/稲村文吾訳 『盟約の少女騎士(スキャルドメール)』 (星海社FICTIONS)

「あなたのお父様は正しかった。騎士になったとしても、髪を短くする必要はない」サラは言う。「こんなにきれいな髪、切ってしまうのはあまりにもったいないから」

メイヤール湖畔に建つ離宮には、ゼーラント国のアーシュラ王女が創設した“湖畔の騎士団”がいた。少女ばかりを集めたその騎士団は、様々な出自の少女騎士とその見習いたちが暮らしていた。騎士のひとり、サラは、ある日の任務中に不可解な連続自死に遭遇する。

少女騎士たちは〈七短剣の聖女〉を信仰する異教徒たちを追い、やがてこの世界の成り立ちに触れる。華文ミステリ作家による、日本初の単著書き下ろし。耽美なファンタジー世界を丹念に描いている。正直なところ、かなり目が滑るのでなかなか読み進めるのに難儀した。「“女騎士萌え”の物語を書いただけ」にしてはあまりに濃厚というか、フェチズムが過ぎるというか。

かつび圭尚 『問一、永遠の愛を証明せよ。ヒロイン補正はないものとする。』 (MF文庫J)

過程なんて関係ないんじゃないのかよ。結果が全てじゃなかったのかよ。そのためならなんでもするんじゃなかったのかよ。

矛盾している。

だけど、その矛盾こそが愛なのだろう。自分の美学から外れてしまうのに、どう考えても非合理的なのに、一目瞭然で間違っているのに。どうしても無視できない。コントロールできない。そんな感情が、ぐるぐる渦巻いてるんだろ。分かるよ。

その日、僕は両片想いの後輩に告白するつもりだった。かつて付き合って別れた彼女、朱鷺羽美凪の妹、朱鷺羽凪沙に。ラブレターを手に屋上へ向かおうとしていた僕は、「おくぴど様」の主催する恋心を巡るゲームに巻き込まれる。

恋と記憶を賭けたゲーム、「コクハクカルテット」。四人の高校生はバラバラの恋心を胸に、否応なしに巻き込まれてゆく。第17回MF文庫Jライトノベル新人賞、審査員特別賞受賞作。「さあ、ゲームを始めよう」から始まる、特殊設定ラブストーリー、とでも言うのかな。個性の強い四人(+α)の恋と「永遠の愛」へのスタンスを、じっくりとミステリアスに描いている。「永遠の愛なんて存在しない」と繰り返す主人公の「面倒くささ」と、甘かったり苦かったりの味覚が想起される恋の思い出が、いやでも印象に残った。個性と同時にアクの強い物語になっていたと思う。続編もすでに予定されているとのことで、楽しみにしてます。

両生類かえる 『海鳥東月の『でたらめ』な事情』 (MF文庫J)

「――私は、でたらめちゃんって言います」

「……?」

「でたらめちゃん。ちゃんまで含めて名前です。平仮名七文字きっかりで、でたらめちゃんです」

「……なんて?」

「泥棒に遭ったみたいなんだ」。帰り支度をしている教室で、海鳥東月はクラスメイトの奈良から唐突に告げられる。泥棒を見つけるため、協力してほしいと奈良に頼まれる東月。それが奇妙奇天烈な事件の始まりだった。その夜、東月が一人暮らしをする部屋に、全身真っ白な少女が訪れる。

嘘を吐けない海鳥東月は、嘘しか吐かないでたらめちゃんに乗せられて、この世に蔓延る嘘を殺す。第17回MF文庫Jライトノベル新人賞最優秀賞受賞作は、少し変わった青春小説、なのかな。恐ろしくレベルの高い変態の登場から始まり、生命を持ち物理法則さえたやすく変えてみせる「嘘」という概念、次々と現れる来訪者と嘘に関する新事実。果たして誰が嘘を吐いているのか、そもそもどこからどこまでが嘘なのか。ゼロ年代的な語り口に最高に噛み合った仕掛けがとても楽しい。怒涛の展開を見せる前半は、かなりの奇想小説と言っていい。……そこまでは最高に好みだったのだけど、物語がまとまりはじめる後半は、ちょっと無難で尻すぼみに見えてしまった。どう見ても難しいのはわかるんだけど、もっと風呂敷を広げていてほしかった、というのは個人的なわがままではある。続きも買います。

円居挽 『誰が死んでも同じこと』 (光文社)

「捜査マニュアルの作成って……具体的に何をするの?」

「基本的には一般企業のそれと変わりませんよ。業務上のボトルネックを見つけ出し、改善するだけです。僕がまず手をつけたのは膨大な事件記録です。それらを丹念に洗い直したところ、重要なのは動機だったということが解りました。実に殺人事件の99・99%が動機のある殺人だったんですよ!」

「いや、それって……普通じゃない?」

日本を代表するコンツェルンの中枢、河帝商事。その名古屋支社長の長男が、自室で何者かに殺害された。わざわざ東京から駆けつけた警察庁の若い刑事、十常寺迅は、河帝グループの社員でグループの内状をよく知る灰原円を連れ立って捜査に乗り出す。その日から、日本全国の河帝の後継者が次々と殺害される事件が発生する。

巨大企業グループの創業家一族が抱えた闇と矛盾が、数十年の時間と殺人を経て明るみに出る。客観的に数値化された人間の価値を問う本格ミステリ。本格ミステリなんだけども、読み終わってみると「聖闘士星矢」のようななにかを感じる。手際のいい悪ふざけのような一冊でした。

香坂マト 『ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います3』 (電撃文庫)

「死んだ人は蘇らない」

ギリ、と奥歯を噛み、アリナは絞り出すようにそう言った。

「だから、冒険者も受付嬢も、バカみたいに辛い職場で、バカみたいに必死に生きてんでしょう……!」

ギルドの受付嬢、アリナは今宵も終わらぬ残業に心ささくれさせていた。ギルドの働き方改革のアイデアを出した従業員には特別休暇を出す、というカウンター長の言葉に燃えるアリナは、カイゼンのヒントを求めて合同研修を受けることにする。かつてダンジョンがあった場所に建てられた研修棟には、おばけが出ると言う噂が広まっていた……

自分の仕事しか考えられなかったギルドの受付嬢は、はじめて職場全体を見つめなおすことになる。ギルドの受付嬢のお仕事物語、第三巻。数十年前の過去に囚われ、歪な執念しか見られなくなったとある人物と、受付嬢として生きることを決めたアリナ。対象的な描き方が象徴的で、素直に惚れる。呪いのような生き方であっても、その呪いこそが大事な大事な思い出。後悔も痛みも全部飲み込んで、生きてやる。ライトノベルでも屈指の、強い女性主人公ではないかと思う。一巻から長所がどんどん尖らせている感覚があり、巻を追って良いシリーズになっている。騙されたと思って読んでみるといいと思います。