野村美月 『“文学少女”と死にたがりの道化』 (ファミ通文庫)

地下書庫の描写.

螺旋状の古い階段を、カンカンカン……と音を立てて降りてゆくと、灰色のドアがあった。
ノックすると、
「どうぞ」
と声が返ってくる。
ドアをそっと手前に引くと、甘い匂いがした。
生クリームやチョコレートの匂いじゃなくて、古い本の匂い。
「甘い匂い」.胸キュンした.


なんていうのか,作者の過去の作品(読んだのは卓球場シリーズ2冊とうさ恋1の3冊だけだが)で感じたエグみみたいなものが抜けて,良い意味で丸くなった印象.具体的に言うと合体事故で産まれたかのような毒々しいキャラクターとか,時空の狭間からはみでてきたようなよくわからん設定とか.それはそれで好きなんだけど,こういった透明感のある話も書けるんだ.
人間失格』などを引き合いに出す,太宰リスペクトなストーリーなんだけど,必要以上に衒いすぎるところがなくバランスがとれていて読後感がすごく良い.ラストでは良い意味で裏切られた.つーか遠子先輩が全編通して良い.何年かぶりで太宰を読み返したくなった.