末永外徒 『108年目の初恋。』 (ファミ通文庫)

108年目の初恋。 (ファミ通文庫)

108年目の初恋。 (ファミ通文庫)

田舎の旧校舎を萌え擬人化しました,というこの分かりやすさよ.と思い読み始めたのだけどそういう安易な話ではなく,主人公・新の成長ものとしての側面がかなり強かった.ただの元気な男の子だった新キュンがいろいろな経験を経て少年になっていくという,少年の方に重きを置いたボーイ・ミーツ・ガール.鈍感かつ直情径行で,一歩間違うとウザくなりそうなキャラクターを「子どもっぽさ」でまろやかに料理している感じというか,素直に見守りたくなるようなキャラとして描かれていた.なかなか稀有で上手い.どっちかというと女子の方々に受けが良さそうかもと思ったけど,男の身でも嫌味なく読めて良かったと思う.身動きの出来ない「旧校舎」の一人称で(前半までは)物語が進むため,その成長の過程すべてが描写されるわけではなく,想像の余地を持たせるような,焦らすような見せ方をしているのも上手かった.
全体を見渡すと,「旧校舎」が明白に少女の姿をとり始めた中盤からだんだんテンポが悪くなり,「普通」のラノベっぽくなったのが個人的には残念.校舎に人格を持たせ,観察者視点で描いた前半部分はしっとり穏やかでとても良かった.築108年なのに「少女」だったり行動に落ち着きが足りなかったりするのは(いちおうの理屈はあるが),まあこのレーベルでこの賞だから仕方ないこととはいえ,その雰囲気を維持して最後まで行って欲しかった.