穂史賀雅也 『暗闇にヤギを探して3』 (MF文庫J)

暗闇にヤギを探して〈3〉 (MF文庫J)

暗闇にヤギを探して〈3〉 (MF文庫J)


「じゃあ、手伝うよ」
「え?」
「記憶を捜しているんでしょう? 私も手伝うわ。記憶ってどういう形しているの?」
先輩の顔は真剣だった。
「丸……かな」
「ふうん」
それから、僕たちは記憶を捜した。
シリーズ最終巻.これはやっぱりあれか,打ち切りなのか.合人の(少なくとも私には)予想外の選択に意表を突かれ,中盤の大事件(の割りに特別大きな意味があるようには見えない)に首を傾げ,極め付けに千早先輩の夢の伏線の消化にずっこけと,どこかヤケクソ気味に見えたのは気のせいなのか.
最終巻になってもやっぱりどこかメルヘンチックな会話はすごく楽しい.風子とひつじ,風子とハハオヤのやり取りにもやっぱりどこか嘘っぽさというか,現実味が薄いのは変わらないんだけど,それでキャラクターの人間味が失われていないのが不思議.どころか優しさが漂っていた.面白い.どっちかというと不遇な扱いだった幼なじみ・風子にスポットライトが当たり,ここまでぼやかされてきた肝心なところがはっきりさせられたのも,魅力を強く引き出す結果になっていて良かった.というか風子が報われる日が来て良かったよぅ.空気とキャラクターの作り方にはやっぱり独特の力がある作者だと再認識した.
それだけに,区切りが付いたとはいえこの物語の続きが読めないのは私としては悲しすぎる.いつか新シリーズなり何らかの形でまた作者の作品が読める日が来ることを願わずにはいられない.

「大気圏脱出前のロケットはまだ地球の重力下にあるから、燃料を使って推進力を得なきゃいけないわけ。そりゃもうものすごいエネルギーが必要なわけよ。自分のことずっと好きでいて、とかずっと自分のそばにいて、っていうのは、そういうのと同じ凄まじいエネルギーを要求してるのよ。そりゃ恋愛の初期状態ならそういうエネルギーが必要かもしれないけど、私と父さんぐらいになったら、もう人工衛星みたいなもんよ。文字通り軌道に乗っているから、あとは重力や遠心力でなんとでもなるのよ」
「でも、人工衛星って地上から見えないじゃない? そういうのって不安にならないの? 本当にちゃんと軌道に乗っているか心配になったりしないの?」
「馬鹿ね。そういう見えない相手を信じられる状態を『愛してる』っていうんじゃない」