野宮有 『どうせ、この夏は終わる』 (電撃文庫)

始まる前から終わりが見えているもの。

エネルギー革命の真っ只中で、短い繁栄期を過ごした池島炭鉱。

客が来る見込みなんてないのに造られた遊園地。

もうすぐ人類が滅亡すると知りながら始まった、きみと私の恋。

それらが生まれたことに、果たして意味はあるのだろうか? 意味がないことを知りながら過ごす毎日に、希望なんてあるのだろうか?

「人類は三年後に滅亡します」。地球と衝突する軌道をたどる小惑星〈メリダ〉が発見されてから二年。予告された滅亡の日まで一年を切った人類は、とっくに恐怖することに疲れ切っていた。今は人類最後の夏休み。青春も夢も投げ出した少年は、変わり者の先輩女子に巻き込まれ、最後の映画作りに協力することになる。

その変わり者の先輩は、タランティーノのようにフィクションで現実を捻じ曲げようとしていた。半壊した社会の中、厭世感につきまとわれていた高校生たちは、「世界を救う映画を撮りたい」という破天荒な女子高生監督に救われてゆく。長崎を舞台に、高校生たちの視点から人類最後の夏休みを描いた青春小説。大きなテーマのひとつが「映画」だけあって、タランティーノを始めとした様々な映画を引用しつつ、フィクションがヒトに及ぼす力をダイレクトに描いている。フィクションが世界を救う、という意味の多面性を追求した、静かだけど熱の込められた物語だったと思います。