桑島由一 『ポイポイポイ』 (スーパーダッシュ文庫)

俺はふと思い出したので医者に言う。
「先生。俺、今までやってなかったこと、やりました」
「なにかね?」
「楽しく生きました!」

ポイポイポイ (集英社スーパーダッシュ文庫) - はてなキーワード

中学 3 年生の夏,寅次は自分の命がこの夏限りであることを知る.実感の無いまま事実を受け入れた寅次だったが,幼なじみの桜に許婚がいることを知ったとき,桜の自由を取り戻すため,金持ちでいけ好かない許婚に金魚すくいで勝負を挑むことになる.
すんげぇ面白かった.王道のスポ根ものをなぞりながら,それにとどまらない直球の青春小説でありビルドゥングスロマン桑島由一らしい,バカっぽくも瑞々しい文体で描き出される優しい空気が凄く心地よい.ただの友だち付き合いに留まらない友情が,バカらしくも楽しい友人や後輩との日々のなかでじんわりと伝わってきた.
田舎の夏の風景の描き方も凄く上手い.例えば祭の日に「壁にガムテープで固定された黒いゴミ袋」のある神社の境内とか,どうでもよかったはずのあれこれを思い出させてくれる細やかな描写.それこそ目に浮かぶようで,いちいちハッとさせられた.
「最後の夏」を描きながらもポジティブで真っ直ぐで,まさに全力疾走していた.読み終わったあとうおおおぉっと叫びだしたくなった.決して熱血ではないんだけど,なんかそんな青春小説.
てことで最高でした.下半期ベストはこれで決まり,かな.ライトノベルの枠に収めておくのが勿体無い一冊だと思う.ぜひ広く読んで欲しいな,と.

ポイポイポイ (集英社スーパーダッシュ文庫)

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