坂口安吾 『肝臓先生』 (角川文庫)

肝臓先生 (角川文庫)

肝臓先生 (角川文庫)

表題作を含む五編を収めた短編集.せっかくの連休だったので掘り出してきて読んだ.学生の頃に買ったものの半分くらい読んだところで眠くなったのでそのまま段ボール箱の中に 5 年以上眠らせてきたという,心なま暖かくなる思い出のある一冊.私がいかなボンクラ学生だったかが分かろうというものよ.
閑話休題で感想.ユーモラスな語り口で肝臓医者こと赤城風雨の伊東での半生を描いた「肝臓先生」も良かったけど,この本の中では「ジロリの女」がベストかな.知的な自信や気の強さを持った「ジロリの女」たちに出会っては惚れる,ある男の一代記.しっとりした文体もさることながら「ジロリズム」に「ジロリスト」といったことばのセンスが新しすぎる.ジロリの女をものにするためバカを自覚しながら道化を演じ,裏で立ち回る三船の姿は滑稽なようでどことなく物悲しくもある.一度は手に入れかけた高嶺の花も,それだけに手元を離れてしまうことが余計に哀しい,のかもな.
ところでカバーにひどい誤植を見つけた件.実際こういう勘違いしているひとは多そうだけどツノカワ書店が間違えちゃいかんよな.私が持ってるのは平成 11 年 5 月発行の四版だけど今は直ってるのかな?