カズオ・イシグロ/小野寺健訳 『遠い山なみの光』 (ハヤカワepi文庫)

遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫)

遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫)

カズオ・イシグロの長編デビュー作.イギリスで生活する悦子の自殺した娘がまだ腹の中にいた頃,戦後間もない長崎で暮らしていた頃に出会った母娘との交流や,当時の夫や義父との思い出を粛々と語る.解説で池澤夏樹も絶賛しているように,会話を中心にした静かな文章の運びが特段に美しく,際だって印象に残る.小さな希望に何とかすがろうとする母と幻に怯える娘.戦後という典型的な価値観の転換期・混乱期に重ねて描かれるエキセントリックな母娘の有様は,なんというか読んでてすごく落ち着かない気分というか,不安になった.良かったです.