坂本康宏 『稲妻6』 (徳間書店)

稲妻6

稲妻6

あの時代から刻は流れ、
我々は正義という言葉を、
嘲笑とともにしか口にできなくなった。
それでも、あえてもう一度、
正義のほんとうの意味を語ろう。
君がまだ知らない、君の言葉を借りて。
変身、稲妻6。

稲妻6 | 坂本 康宏 |本 | 通販 | Amazon

橘尚人は死ぬことにした.友人の連帯保証人として莫大な借金を背負わされ,何年も働き続けたものの返済できるあてはまったくない.妻と幼い娘に宛てた遺書を置いてビルから身を投げた尚人は,しかし気がつくと黒い鬼のような怪物へと変貌していた.
愛媛県松山市を舞台にした変身ヒーロー小説.寄生虫サンシプラズマによって人喰いの怪物と化した患者たちと尚人との,己の正義をめぐる戦い.「稲妻6」(イナズマシックス)とは「六番目の患者」を意味する変身後の尚人の名前.変身から戻る度に全裸になってしまうので着替えの用意が必須だとか,変身中は口を利けなくなるため筆談(地面に指で)でコミュニケーションをとるだとか,変なところで抜けた味があるのは作者の持ち味だろうな.寄生虫に関するうんちくが患者たちの悲劇と並行するように寄生虫フェチの女性研究者から次々語られるのも妙な感じ.しかし一冊完結でどうしても掘り下げが足りなかった.変身のメカニズムや「正義」とはなにか,一応ひと通りの答えは出されるものの,駆け足気味なのよなー.患者たちの戦いは文句なしに格好良いし,サンシプラズマの謎など男の子ゴコロくすぐる見せ場・仕掛けは多かっただけに,もったいないと思う気持ちも多少.これはこれで面白かったんだけどね.