森川智喜 『キャットフード 名探偵三途川理と注文の多い館の殺人』 (講談社BOX)

キャットフード 名探偵三途川理と注文の多い館の殺人 (講談社BOX)

キャットフード 名探偵三途川理と注文の多い館の殺人 (講談社BOX)

「緋山は正直だなあ。鼻の下が伸びてるぞ」
柏はそう言ったが、もちろん、おれの鼻の下はいかなる意味においても伸びてなどいなかった。──人間の女に欲情するような変態のネコじゃないという意味においても。そして、その気になれば本当に鼻の下を一メートルぐらいぐぐっと伸ばせるが今はそんなことをやっていないという意味においても。

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人間たちが社会を営むのと同様,ネコ社会というものもあるのが道理.化け猫プルートはネコ社会の食品業界に革命を起こすべく,新鮮な人間の肉を流通させるビジネスを計画し,ようやく工場の建設までこぎつけた.加工機械の試運転の材料に選ばれたのは,高校生の四人組だったが,そのなかに同じく化け猫であるウィリーが紛れ込んでいたから話がややこしくなる.
ネコ社会の法律により,猫は猫を殺すことは出来ない.四人の中に隠れることで,三人を殺させまいと頑張る化け猫ウィリーと,プルートの飼い主である変態高校生探偵三途川理たちの知恵比べ.人肉加工工場を舞台にした人肉喰らいの化け猫たちのミステリ.という書き方だとアレだけど,ユーモラスで小洒落た,感じの良いミステリに仕上がっていると思う.制約付きでどんなものにも化けられるという化け猫をキーにした謎解きは小気味よく,やたら所帯じみたネコたちもやけに憎めない.おかげで三途川の変態っぷりが対照的にさらに光るというもの.まあじっさい殺したり喰ったりしてるんだけどね.
ラストの「反則だ!」以降の意味が最初よく分からなくて考えたんだけど,これは私がミステリを読みつけてないせいだと思うんだよね.講談社 BOX のデビュー作というくくりではかなりの当たりだと思う.良かったです.