- 作者: 本岡冬成,ゆーげん
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2010/12/17
- メディア: 文庫
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「あの人の魂が、昇っていくよ」
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「──なんだって?」
トワが見あげる空を、シズマも見あげた。しかしそこには当然なにも見えず、黄昏に埋め尽くされているだけだった。
「どうして人はみんな、黄昏で死んでしまうんだろう……あんなにも綺麗に輝いているのに」
トワは静かに涙を流していた。なんのために流す涙か、シズマには理解できなかった。
「だから、黄昏なんてものが生まれたんじゃないかってことさ。そして黄昏を排除できたとき、きっとまた新しい黄昏が俺たちの前に現れるよ。全財産、賭けたっていい」
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シズマは《黄昏世界》と《黄昏のない世界》の間にある境界都市に妹とふたりで暮らしていた.大都市での仕事を終え,家に帰ろうとしたシズマは,トラックに忍び込んでいた少女,トワを気づかずに連れてきてしまう.トワはいっしょに暮らす妹のアオイに瓜二つの外見をしていた.
ヒトの心に入り込みじわじわと殺す毒,《黄昏》が空に満ちた茜色の世界からの「逃走」劇.けだるく貧しく《黄昏》に呪われた日常の描写と,《黄昏世界》,《黄昏のない世界》,ふたつの世界の間のまったく分かり合えない断絶など,世界観描写中心の雰囲気小説ではある.青い表紙もきれい.他からもたらされる死は救いだが,自分では死にたくない.《黄昏》があろうとなかろうとヒトは生きるし死ぬ,という.「死ぬときは、なんのせいでもなく、堂々と死んで」という(帯にも載っている)セリフに,読み終わってみると意外なほどぐらっときた.せっかくの三人の関係があんま生きているように見えないのがもったいないとか,気になるところはいくつかあげられるけど,良かったと思う.