ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア/伊藤典夫・友枝康子訳『老いたる霊長類の星への賛歌』 (ハヤカワ文庫SF)

「何もない、どうしようもない、きみはそう信じているんだね?」
「この先には取り返すことのできない、長い衰退の道があるだけだ。始めてわれわれは、行く手に何もないことを知ったんだ」
一瞬の後、ルトロイドの視線が落ちて、沈黙がふたりを包みこむ。外では目に見えぬ、巨大な、輝く銀河がうねりながら流れていた。有限の牢獄。出口なし。

エトセトラ、エトセトラ

七篇を収録した中短篇集.ジェンダーとセックスを前面に押し出した作品が中心……に見えるのはティプトリーの性別が明らかになって間もない時期の作品集だからなのか,単なる先入観なのか.特に好きなのが,女性だけの世界になった未来に行った三人の男,「ヒューストン、ヒューストン、聞こえるか?」と,開拓されつくした宇宙に住むものの閉塞感を描く「エトセトラ、エトセトラ」.ほかの収録作品は「汝が半数染色体の心」「煙は永遠にたちのぼって」一瞬(ひととき)のいのちの味わい」「ネズミに残酷なことのできない心理学者」「すべてのひとふたたび生まるるを待つ」.それにしても,どの作品もタイトルがすごくいいなあ.