フィリップ・K・ディック/浅倉久志・他訳 『まだ人間じゃない』 (ハヤカワ文庫SF)

まだ人間じゃない (ハヤカワ文庫 SF テ 1-19 ディック傑作集)

まだ人間じゃない (ハヤカワ文庫 SF テ 1-19 ディック傑作集)

それまで〈お山の大将ごっこ〉をしていたウォルターは、糸杉の木立の向こうに、白いトラックの姿を見た。それが何か、彼にはすぐわかった。あれは堕胎トラックだ、と思った。堕胎施設で生後堕胎をする子供を収監するためにやってきたのだ。

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1954 〜 1974 年に発表された全 8 篇.それぞれ皮肉が効いた,というと聞こえがいいかも分からんけど,「こんな未来社会はイヤだ」と言った方がとおりがよさそうな気がする.そんな短篇集でした.
「フヌールとの戦い」(友枝康子訳)は異星からの間抜け(?)な侵略者フヌールと地球人の戦い.ラストでずっこけた.楽しい.
「最後の支配者」浅倉久志訳).地球に残った「最後の支配者」とアナーキスト連盟の最後の戦い.体制と反体制が見事ひっくり返ったが故に荒廃しきった社会の行く末.このラストは好きだな.
ガニメデ=地球線の渋滞と,その間の広告攻勢にぐったりして帰ってきたモリス.彼の家に押しかけてきたのは大迷惑な押し売りロボットのファスラッド.「CM地獄」浅倉久志訳)はあまりにもケチくさい.はじめて雑誌掲載された際に「くそみそにけな」されたとのことだけど,いま読んでもじゅうぶんに気が滅入る.行き詰まった未来像は時代を超えるんかな,とか思った.
「まだ人間じゃない」(友枝康子訳).12 歳未満の,代数計算の出来ない「未人間」は生後堕胎の対象となる社会で,人間が人間たる条件とはなんぞやを問う.中絶問題への問題提起になっているような,そうでもないような? しかし作品メモでこの作品に言及した部分,「お悪うございました」には吹いた.