新井輝 『俺の教室(クラス)にハルヒはいない』 (スニーカー文庫)

ただの人間には興味ありません。
俺は廊下を歩きながら、その言葉を反芻し、一つの疑問を口にした。
「だったら、ただの人間はどうしたらいいんだ?」
もちろん答えはどこからも返ってこない。

俺の教室にハルヒはいない (角川スニーカー文庫) | 新井 輝, こじこじ |本 | 通販 | Amazon

教室の窓際,いちばん後ろの席は,入学してからずっと空席のままだった.その前の席に座る高校生のユウは,特に変わったこともなく過ごしていた.ある日,高校に入ってからなんとなく避け気味にしていた幼なじみのカスガから,声優を目指していることを告白される.
「学園モノが苦手」な高校生が,あれよあれよと三角関係と業界の闇に飲み込まれてゆく.新井輝の久しぶりの小説だが良かったなあ.少年も少女も,あらゆる方向に煮え切らないこの気持ち悪い感覚がたまらない.すごい才能と目標を持つひとたちの間にいる「ただの人間」が,その関係の中でどういった価値を持ちうるのか.という本家ハルヒへの回答であると言おうと思えば言えるんだけど,まああまり考えずに煮え切らなさをじくじくと味わうほうが良いのかもしれない.
それにしても,「教室内における涼宮ハルヒの席」がひとつの象徴たりえるということが面白いなあ.『WHITE ALBUM』や『To Heart2』といった具体的なタイトルを持ち出して恋愛と学校生活を語り,ガンダム仮面ライダーで才能や情熱について語り,そしてタイトルはハルヒ.なんというか,いろいろな積み重ねがあって「現在」があるのだと,うまくまとまらない感慨を抱いたりしたのでした(作中の時間は2010年前後).続きがちゃんと出ることを期待しています.