石川博品 『ヴァンパイア・サマータイム』 (ファミ通文庫)

恋に生き、恋に死にたいと思った。昼夜逆転していると心が柔になり、触れたものに合わせてたやすく形を変えてしまいがちだ。明日になればこの感動も消えて、泣いていたことなど馬鹿みたいだと思い出されるだろうが、やはり恋なのだった。その一点だけで彼は、まわる世界にかろうじてひっかかっていられる気がした。

Amazon | ヴァンパイア・サマータイム (ファミ通文庫) | 石川博品, 切符 | ライトノベル 通販

人間と吸血鬼がちょうど半々であり,昼と夜を分け合うように共存している世界.両親の経営するコンビニで手伝いをしていた高校生ヨリマサは,紅茶を毎日買っていく少女がいることに気付く.すぐに知り合うことになるふたりは,すぐに互いに惹かれ合うようになる.
石川博品の久しぶりの単行本は人間の少年と吸血鬼の少女のラブストーリー.人間と吸血鬼が共存する世界の話,ということで,ゾンビと人間が共存する『ぼくのゾンビ・ライフ』(感想)みたいな話なのかなと思って読みはじめたらだいぶ違うものだった.あとがきにあるように,特別でない少女と特別でない少年の恋愛に仕上がっているのだけど,それにしてもこいつら可愛いな.さりげなくて鋭い表現にいちいちキュンと締めつけられる.世界の理不尽をおおいに語るでなし,過剰にロマンを盛っているでなし,一体どこからこの感覚が湧いてくるんだろうね.『ぼくのゾンビ・ライフ』は後半で裏切られたような気持ちになった(良い作品なのでみんな読むといい)ものだけど,こちらはただただ切なくなった.吸血鬼側に女の子しかいない(いるのは間違いないが出てこない)のがなんかのわかりやすいメタファーであるとか,ヨリマサは深夜のデートでどれだけ周囲が見えていたのか……とか言っちゃうのは野暮の極みよね.とても良いものでした.