西崎憲 『世界の果ての庭 ショート・ストーリーズ』 (創元SF文庫)

父と生活するのは楽しくはなかった。けれども、そんなことを思うと、ある日、父も急にいなくなってしまう気がして、考えないようにした。もしそうなったら、わたしはもう死ぬしかない。わたしはどうやって死のうかと考えた。飛び降り自殺がいいと思ったが、どこから落ちてもかならず誰かの上に落ちるような気がした。

世界の果ての庭 (ショート・ストーリーズ) (創元SF文庫) | 西崎 憲 |本 | 通販 | Amazon

若くなる病を発症した母,どことも知れない駅でできた世界,「庭」をめぐる考察,ある人斬りの話,ある神学.いくつもの断片化された物語が重なり合う,第14回日本ファンタジーノベル大賞受賞作.庭を語る物語,それ自体が庭の持つ「中間的な場」としての性質を表現している,というのかな.物語が入れ子状になっているだけでなく,物語と現実までもが入れ子状になっている.もしも,この形式でなく掌編集として編まれていたらどんな本になったんだろう,みたいなことを読み終わってからぼんやり考えたりした.