弥生志郎 『明日、今日の君に逢えなくても』 (MF文庫J)

「今すぐじゃなくても良い。少しずつ、私のことを認めてくれれば十分よ」
「でも、瑞希さんは、私を嫌いになるかもしれない」
「その可能性は否定出来ないわね。でも、誰だってそれを分かったうえで、お互いを求め合うんでしょ? そうしないと、ずっと一人ぼっちだから」

明日、今日の君に逢えなくても (MF文庫J) | 弥生志郎, 高野 音彦 |本 | 通販 | Amazon

俺の妹はひとつの体に三つの人格を宿している.髪をリボンで結んだ穏やかな藍里.元気で子供っぽいポニーテールの茜.クールで無愛想でドクロのヘアピンをつけた蘭香.妹「たち」は今日,誕生日を迎えた.
多重人格が発生する病気〈シノニム〉を患った,三人の人格を持つ少女の恋.そして家族や友人たち.三つの人格,藍里,茜,蘭香がひとつの体を互いを尊重しながらシェアし,それぞれの時間,それぞれの生活を持っている,という描写が面白い.三つの章で,重なりあった時系列が描かれる.姉妹でも友人でもない不思議な関係にありながらそれぞれの人格が互いを尊重し信頼し合っていること,さらに理解を示すひとたちに恵まれた環境.切なさと同時に暖かさが作品内に満ちている.
多重人格の描写はビリー・ミリガンをモデルにしている(作品内でも言及される)ようで,「スポット」といった用語もそのままの意味で使われている.個人的にはちゃんと読んだことがないのでどれだけ下敷きにされているのかはなんとも言えず.ただし,解離性人格障害とははっきり別物であるとのこと(あとがき参照).このへん,少し解説があるとよかったな.あと,伊藤計劃『ハーモニー』から引用したと思われるセリフがあるので読むひとは探してみるといい.