大泉貴 『我がヒーローのための絶対悪(アルケマルス)2』 (ガガガ文庫)

「しかし、闘争というのはなにも暴力だけではありません。我々は他者とわかりあうための言葉も、わかりあえる心も持っているのですから。第一種(ファースト)の世代は失敗しましたが、次の世代である次種(ネクス)の君たちにはどうか見つけてほしいのです。リヴァイアサンという組織にとらわれない、この社会で君たちが生きていくための、それぞれの『良き闘争』を……」
十雲の柔らかい眼差しがいつのまにか花音のほうへ向けられていた。
「桜井花音さん、どうです? いま君は、君だけの『良き闘争』を見つけられていますか?」

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「余は認めない。お主はヘルヴェノム卿でも、ましてや絶対悪(アルケマルス)でもない。その不遜なスーツで力を得たと勘違いした、悪の皮をかぶったニセモノである! ヘルヴェノム卿と我らが歩み、紡いできた歴史に、貴様のようなニセモノが立ち入ることなど断じて認めんッ!!」

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禍嶽社リヴァイアサンの二代目総帥,ヘルヴェノム卿こと沖名武尊は,ガイムーンに関するプロジェクトの情報を手に入れ,エコールこと桜井花音とともにある病院に向かう.一方,怪人(オルタ)に襲われていた救急車を救出した正義のヒーローガイムーンこと天羽ミアは,その際に助け出した少女を気にして病院に向かっていた.
正義のヒーローになった幼なじみのために「絶対悪(アルケマルス)」となった少年の歩む道を描くピカレスクトーリー.壊滅した禍嶽社リヴァイアサンに忠誠を誓う第一世代の怪人(オルタ)である第一種(ファースト)と,その次の世代である次種(ネクス)の間の断絶.悪となることを決意したヘルヴェノム卿の真っ直ぐで容赦のない言動.ガイムーンを生み出した【財団】の企て.機械仕掛けの獣.「良き闘争」.一巻(感想)にもまして今回はすさまじかった.「正義という呪い」を描いた作品として,『WATCHMEN』に匹敵しうるものがあると思うんだ.と言っても本歌取りでもオマージュでもなく,描かれるのは「変身ヒーロー」という馴染み(?)の存在と解釈であり,独自のものとして完成されている.
ヒーローになれる条件としての「正義」(一般的な正義ではなく変身の条件)が完璧に定義されているのだけど,それがマインド・セットという形で表現されるのがミソなんだろうな.心がなくとも機械的に為せる正義.「悪」がない世界では「正義」はどうなってしまうのか,というよくある問いかけに,この作品でないとできない回答を用意してくれている,と思う.とにかく「正義」と「悪」の葛藤がすさまじい熱量を持っている.手加減のないアクションシーンも激しく,そしておそろしくかっこいい.傑作だと思います.ヒーローもの好きなひととかにもっと読まれるといいな.