永森悠哉 『多重心世界シンフォニックハーツ 上.独声者の少年』 (スニーカー文庫)

人格ごとに評価が異なること、人格ごとに恋人や家庭を持つこと、そしてエルピスに対する信仰心。そのいずれもが、多声者たちにとっては疑問符をつけることすらありえない「日常」だった。
異常なのは、そのことに疑問を抱くソロのほうなのだ。

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住人のすべてが多声者=多重人格者である惑星アーモネイディア.女神エルピスを篤く信仰し,多くの人格を持つ者ほど尊いとされる世界で,独声者(モノス)である少年ソロと少女カノンは不当な差別を受け続けていた.そんなソロの前に反星府組織「シンフォニア」のメンバーが現れ,ある事実を告げる.
第10回スニーカー大賞〈奨励賞〉受賞作.発売日に買って7年積んでいたわりには古びた感じはしない.というか,設定の作りこみとか,少年少女の虐げられっぷりとか,支配階級の不当(に見える)な弾圧とそれに対するレジスタンス活動とか,一周回って最近のハリウッドSFのような趣がある.宇宙船の派手なバトルや,後半で明らかになる「人格形成遺伝子」の秘密もそれっぽい.複数の人格がすべて別の名前を持っているので誰がなにをやっているのかわかりにくいとか,設定があれこれと詰まっているのでどうしても説明的になってしまうとか,わかりやすい欠点も多いのだけど,ストーリーの先が気になる.どっかで下巻も手に入れて読みたいな.