松村涼哉 『ただ、それだけでよかったんです』 (電撃文庫)

悪魔のような中学生が一人で四人のクラスメイトを支配し、その中の一人を自殺させた。
あまりに荒唐無稽な話だった。
わたしがそんなニュースを知らされたのは十二月の上旬。大学三年生であるわたしは、一人暮らしをしているために実家の近況を知らず、まさに寝耳に水であった。
信じられなかった。
まさか昌也が亡くなるなんて。

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十四歳の中学生,岸谷昌也は,一枚のルーズリーフに一言書き残して自殺した.『菅原拓は悪魔です。誰も彼の言葉を信じてはいけない』.桁外れの優等生だった弟が死んだことが信じられなかった姉のわたしは,なぜ弟が死ななければならなかったのかを探ることにする.
『悪魔』のような中学生,菅原拓は「革命」を起こそうとしていた.第22回電撃小説大賞大賞.人間力を数値化する「人間力テスト」が取り入れられた学校と,誰にも認知されることなく進行したイジメ.いったい何が起こっていたのか,ふたりの当事者の断片的な語りが,徐々にひとつに繋がっていく.あやふやなパーツが形を作っていく読み心地の気持ちよさは,ミステリのそれに近い.その結果として成就される「革命」は見事.まさに価値観がひっくり返るところを目の当たりにすることになる.
素直に読んでくと,「人間力テスト」が悪いだとか,スクールカーストが,とか思ってしまうのだけど,たぶんそういう話ではないんだよね.作中で言うように,わかりやすく数値化(舞台に当てはめて文章化)しただけなんだと思う.それだけに胸糞悪いというか余計に救いがないというか.いやよくこれを大賞にしたなと思う.