「あ、じゃあこうしましょう」
エミリアが思いついたように、いった。
「三十年後、お互いに独身だったら結婚しましょ?」
頬杖をついた彼女の顔を炉が微かに照らしている。彼女の穏やかな笑みは、その炎によって赤く色づいていた。
レオハート家の令嬢、エミリア・レオハートは「獣腫」と呼ばれる猫耳を持っていた。学園最後の18の年。子供の頃からエミリアに付き従ってきた執事のロイドを伴い、自分探しの旅に出る。
18歳の猫耳お嬢様の自分探しの旅。付き従うのは42歳で198センチの、髭の執事。相応の教養と好奇心を身につけ、自分にないものを探すお嬢様と、そんなお嬢様を優しく厳しく、陰に日向に見守る執事。嫌味のないキャラクター描写と、静かで優しい、リラックスした信頼関係が心地よい。出会いと別れと成長を描く、オーソドックスなファンタジー世界の旅物語に、どうか世界が少しでもよくなっていきますように、という純粋な祈りが込められていると感じた。世界はとどまらずに変化を続けている。過去には戦争があった。大人たちは過去を引きずり成熟しきれず、現在は差別が横行している。子供たちの世界は、いいものでありますように。しみじみと良いものでした。