伴名練編 『日本SFの臨界点 石黒達昌 冬至草/雪女』 (ハヤカワ文庫JA)

「代謝が下がり寿命の長いユキが人間の目ざす方向だとしても、長い睡眠時間と低下した行動力という単に引き延ばされただけの時間に、いったいどういった意味があるのか」

という言葉に見て取る事が出来る。そして、それとともに、

「この少女を助けたい」

という一文が見える。柚木は「永遠」という言葉に憧れる一方、「永遠」という言葉が作り出す闇から、この少女を救い出したいという思いを抱いたようにも思える。

1993年から2002年に発表された作品を集めた全8篇の短編集、伴名練の解説付き。論文やルポ、レポートのような冷静な筆致を駆使して、わりと大真面目に大法螺を吹く傾向が強い、ように思う。現役の医師らしく(なのか?)、滅んだ、あるいは滅びようとしている生命に触れる作品が多いのかな。娘の小児がんを治療するため、ひとつの種を絶滅に追いやった弁護士に関するレポート「希望ホヤ」。放射性を帯びた絶滅植物の研究史を描いた「冬至草」。人間ではありえない低体温の少女と、彼女を診続けた医師の記録「雪女」。横書きかつ、図表や写真を入れて疑似論文の形式を取った「平成3年5月2日,後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺伸彦博士,並びに,」は、絶滅したハネネズミに関するレポート。特に良かったのがこのあたりかな。


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