水鏡月聖 『僕らは『読み』を間違える』 (スニーカー文庫)

そう、現実世界は残酷なまでに何事も起こらないし、僕はメーテルリンクが『青い鳥』の中で語るように、何もない日常のすぐそばにこそ幸せがあると気づけるほどに歳をとりすぎてはいない。

そんなことをつぶやきながら、あの頃の僕は長い坂道をうつむいたままで歩いていた。

こんな世界に夢や希望なんてないとひねくれて愚痴ってばかりいた。

岡山県のとある私立高校。高校一年生の竹久優真は、文芸部の仲間たちと「走れメロス」の黒幕や、太宰治の死の真相について議論を交わす日々を送っていた。

第27回スニーカー大賞銀賞受賞作は、文芸部に集まる小さな謎と恋と、中三から高一までの間にあったいくつもの「読み間違い」を描く青春ミステリ。いかにもな文芸部小説であり、ひねくれて捻じ曲がった中学生だった主人公が、失恋を経て高校生になって、まっすぐ前を向くことができるようになった、という愚直で素直な物語でもあった。フィクションで画一的に描かれがちな「文学少女」は、その後どういう風に歩むのか、みたいなテーマもあるのかな。あらすじで気になったのであれば手にとってみて良いと思われます。