松村涼哉 『暗闇の非行少年たち』 (メディアワークス文庫)

働き始めて一週間で肌が荒れ始め、額に特大のニキビができた。二週間で休日にもゲームで遊ぶ気力さえなくなって、四週間で不眠症になった。薬局で買った市販の睡眠薬は効き目がよくて、つい飲み過ぎる。規定の三倍も飲んで朝まで気絶する。オーバードーズという言葉はSNSのタイムラインで知った。メチルエフェドリンやジヒドロコデインを含んでいる風邪薬が良いらしい。店頭で大量に買うと、店員にマークされるからネット注文で購入する。十錠ほど一気に飲み込んで脳みそをぶっ壊す。いずれ肝臓に異変をきたす。そのリスクも理解していたが、やめられない。

少年院を退院した18歳の水井ハノは、与えられた生活にも仕事にもまったく馴染むことができず、ギリギリの状態にいた。金も行き場もない若者たちが集まる、名古屋・栄の「ブル前」で、ハノは「ハーブ」の入った封筒を受け取る。だが、その封筒に入っていたのは【ネバーランドへの招待状】と書かれた、仮想共有空間(メタバース)のアドレスだった。

新宿のトー横、大阪のグリ下と並ぶ名古屋・栄の「ブル前」にて、少年院を退院した若者たちに渡された仮想共有空間(メタバース)の招待状。顔も名前も知らない、居場所のない子どもたちに、仮想の空間を提供する【ティンカーベル】の目的とは。答えの出ない、現在進行形の問題を描く。今までこういうものを書きたかったんだろうな、という意味で、作者のひとつの到達点かつ通過点なんだろうなと思った。綿密な取材のあとが見て取れる一方、ラストのような幕引きはおそらく作者も信じてはいないだろう。いくらなんでも現実に寄り添いすぎではないかと心配になった。読んでる最中も、読み終わってからも変な腹痛がずっと止まらないよ……。メンタルに重くのしかかる。読むときは気をつけてほしい。