古河絶水 『かくて謀反の冬は去り』 (ガガガ文庫)

「本当に馬に乗れるとはな」

馬の口取りを無理やりかって出た荒良女が言う。

「昔、王都の民に戯れ歌が流行った。『馬に乗れぬ王子』。悔しくて練習したよ」

「いい話じゃないか」

「そうしたら、歌の題名が変わった。『馬には乗れる王子』」

「それもまた人生だ」

王弟、城河公奇智彦。生まれつき左半身に麻痺を持つ、足曲がりの王子にして王室の忌み子。近衛隊長官への就任式典で、同盟国である帝国から祝いの品として熊を贈られる。その三週間後、大王たる長兄が突然この世を去る。兄が、死んだ。王が、死んだ。次の王は、誰だ?

第17回小学館ライトノベル大賞審査員特別賞受賞。兄王の突然の死に、“足曲がりの王子”、奇智彦はどう立ち振る舞うのか。ウィリアム・シェイクスピアの「リチャード三世」をオマージュしたという、優雅で毒の強い宮廷権力闘争劇。むっちゃくちゃ楽しかった。権謀術数と疑心暗鬼につきまとわれた王のいない王室、自身と他者、それぞれから語られる癖の強い人物評や、急速でいびつな発展を遂げたと思われる、野蛮さを残した王国の社会や文化のギャップ、ちょいちょい挟まれる(シェイクスピア以外の)オマージュ、それらを包み込むユーモアのある会話から紡がれる緊張感の緩急が何よりも最高だった。半身麻痺の身体描写と、それさえ利用して人心を操り生き伸びようとする奇智彦の生々しさも本当に良い。武内崇が推薦するのもわかる。日本ファンタジーノベル大賞や「耳刈ネルリ」シリーズが好きなら手にとってみてほしい。ファンタジーの傑作だと思います。