詠井晴佳 『いつか憧れたキャラクターは現在使われておりません。』 (ガガガ文庫)

学校が人体なら、きっとここは腎臓だろう。

身体中の悪いものを一手に押し込めて、それから、排出する準備をしてやがるのだ。

19歳の専門学校生、七曲成央の前に現れたのは、15歳の時に明澄俐乃のために作ったVRシンガー、響來だった。15歳だった俐乃は、響來となり、芸能人の境童話となった。同じく19歳になった成央は、ずっと同じ場所で足踏みをしていた。響來の願いによって、ふたりはおおよそ四年ぶりに再会する。

「キャラクターってさ、なんというか。……いつ死ぬと思う? ……というかさ、そもそも、キャラクターって何だ?」

中学校の保健室で出会い意気投合した二人が生み出したVRシンガー「響來」が、19歳になりまったく別の場所に立つ二人の前に、自我を持ったキャラクターとして現れる。第17回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞作。

15歳から19歳まで、会うことのなかった四年を隔てて、変わったもの、変わらなかったもの、変わったようで変わらなかったものを、キャラクターと人間の対称性から描いてゆく。同一性の塊であるがゆえに変わることができないキャラクター、唯一性を持つがゆえに変わることのできる人間。キャラクターは人間を殺せない、キャラクターが殺せるのはキャラクターだけ。主人公がサブカルクソ男女を自称するなど、非常に現代的であり、その一方で非常に青臭く普遍的でもある。とても眩しいものを裡に秘めた良い青春小説でした。