手代木正太郎 『涜神館殺人事件』 (星界社FICTIONS)

あんた、娘がいなくてホッとしているなんて、ひどい母親だって思っているんだろう?

ここだけの話ね、あたしは、あの娘たちがどうしても自分の実の娘とは思えないんですよ。だってさ――変に思わないでおくれよ――あの娘はね、生まれてきたときは、双子じゃなかったんだよ……。ええ。そう。あたしのお腹から生まれてきたときは、間違いなくひとりだった。なのにね、途中からふたりに増えたんだ。

帝都より遠く離れた北方湿地帯に建てられた石造りの屋敷、涜神館。あらゆる欲望と快楽の追求、そして悪魔崇拝の舞台となった涜神館は、その持ち主である公爵の処刑に伴い無人となる。それから二百年。幽霊屋敷(ゴースト・ハウス)として有名となっていた涜神館を買った探偵小説家によって、帝都から霊能力者が集められる。

悪魔崇拝、黒ミサ、賭博、麻薬、性的背徳と狂乱の舞台となった屋敷に集められた本物の霊能力者たち。毎夜繰り広げられる交霊会(セッション)で披露される、エクトプラズム、逆行認識能力、心霊写真、チェンジリング……。招待客のひとり、イカサマ霊媒師のエイミー・グリフィスは、本物の心霊現象と惨劇に見舞われる。現実化する超常現象、混沌と悪ふざけの極まる悪魔崇拝、館に二百年に渡って隠された真実。オカルト小説にして新本格・館ミステリ。こういうのが読みたかった! みたいなわくわくが存分に感じられる。作者独自の筆致で、けっこうな割合で描かれる悪ふざけも楽しいし、不思議と爽やかな読後感も良かった。これこそエンターテイメント。元ネタがわかるだけの教養があればもっと楽しめたのだろうと思うとちょっと悔しかったところ。あらすじやキーワードに気になるものがあればぜひぜひ読んでみるといい。